取引先のカスハラで社員が死亡した場合、労災認定はおりるのか?

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顧客からの理不尽な要求や暴言などを指すカスタマーハラスメント(カスハラ)。このカスハラによって「実害」が生じた場合、法律的にはどのような判断が下されるのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、 カスハラを巡るとある裁判を紹介するとともに、企業が注意を払うべき2つのポイントを記しています。

取引先からのストレスは過労死の原因と認められるのか

最近、「〇〇ハラスメント」という言葉を聞くことが多くなりました。いったい何種類くらいあるのかと思い検索してみると

「全35種類のハラスメント一覧」
「ハラスメントの種類 全部で50以上!」
「ハラスメントの種類が52個もあることをあなたは知っていますか」

など、バラバラでしたが非常に多くあるのは間違いないみたいですね。その中で、私のお客様に接客業が多いからかも知れませんが「カスハラカスタマーハラスメント=顧客からの理不尽な要求や暴言など」という言葉をよく聞くようになりました。

では、実際に顧客からの無理な要求や暴言があった場合それは労災の原因としては認められるのでしょうか。それについて裁判があります。

ある医薬品販売の会社でその営業担当者が営業車の中で意識不明の状態で発見されました。救急搬送されましたが急性心不全のため死亡しました。遺族は労災申請をしましたが労基署は死亡前の残業時間が過労死ラインを下回っているとして労災の認定をしなかったのです。そこで納得がいかなかった遺族が裁判を起こしました。

ではこの裁判はどうなったか。

この裁判で遺族側が主張したポイントの1つが「取引先の社長の叱責」です。この社長は機嫌が悪いときには自社の社員や取引先の担当者に理不尽に怒ることもあり、取引先を出入り禁止にしたり取引量を大幅に減らすことがたびたびあったのです。

実際にはこの死亡した営業担当者は、同社長からの信頼は厚く取引量も伸びてはいましたが、営業報告には「自分が出入り禁止になってもおかしくなかった」などと記載していました。これを遺族側は「相当な負担だった(だから労災である)」と主張したのです。

では、これは労災と認められるのか。

裁判の結果、労災と認められました。具体的には裁判所は以下のように判断しました。

  • 過労死ラインを超える時間外労働は認められないが、相当な長時間労働が継続していた
  • 重要な取引先に対する精神的緊張があり、肉体的、精神的負荷の大きな業務を長期間継続していた

いかがでしょうか。実務的には注意すべきポイントが2点あります。

1点目は自社の社員が取引先から理不尽な要求などで過度な負担が発生していないかの確認です。今回の裁判が労災と認められたということはもし自社でこのようなことが起こったら会社が「安全配慮義務違反」で訴えられる可能性もあります。

もちろん、そのような事実があったからといってすぐにその会社との取引を中止できるかというとそれも難しい場合が多いかも知れません。ただ、もしそうであれば他の業務を割り振って負担を減らすとか改善出来る方法を話し合う等、できることはあるのではないでしょうか。過度な負担が続く状態だと社員の早期退職にもつながりかねません

もう1点が自社の社員が取引先に対して理不尽な要求などをしていないかの確認です。もしそのようなことがあると万が一の場合は、その社員とともに会社も訴えられる可能性があります。

今回の裁判は、(叱責していた)社長の直接の罪を問うものではないため実際の裁判になったらどう判断されるかはわかりません。ただ、労災認定されている以上、全くなにも問われないとは考えづらいでしょう。

取引先を含めた職場環境を整えることは社員のモチベーションアップやモラルの向上にもなります。一度、確認してみてはいかがでしょうか。

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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