民放の地上波TV終焉か。Netflixの攻勢で加速する負のスパイラル

 

民放の地上波というビジネスは、そもそも媒体力という点でネット広告にシェアを奪われていったわけです。ということは、経営の改革が必要でした。少なくとも連合して課金ストリーミングに打って出るとか、人口減を受けて海外でも売れるコンテンツ制作にシフトするといった方向性です。

そのためには、「制作費を確保もしくは増額」する一方で「間接部門の経費は思い切りカットする」というリストラが必要でした。あえて言うのなら、「キー局が4、5あり、準キー局が4つあり、地方局は無数にある」という体制を、思い切ってタテヨコに連合させていって、経営力を強め、間接経費を思い切りカットし、制作の現場にヒトとカネの資源を集中する、そのようなダイナミックな動きが必要だったのです。

少なくともTV業界のビジネスパートナーである広告代理店は、合従連衡もリストラもやっています。変われないのはTVだけなのです。

外資の攻勢は、そのように「変われない日本の脆弱性につけ込んでくるのです。

例えば、ECがそうです。楽天だけが必死に頑張っていますが、これだけ特殊で要求の高いマーケットでありながら、結局はアマゾンに巨大なシェアを許してしまっています。

電子書籍もそうです。印刷、製本、用紙といった権益を気にして電子化が遅れる中で、こちらもキンドルに席巻されています。全く違う言語圏なのにです。

コンピュータがらみでは、もっと悲惨です。OSはここ30年100%外資、スマホのOSも「iモード」を過小評価して潰して以降は同様、オフィス・スイートも役所から何からみんなMS、SNSに至ってはほとんど全部が外資(LINEは韓国系)ということで、これだけ教育水準が高い人口を擁していながら、テック関係は全滅に等しいわけです。

日本というマーケットは、中国に抜かれたとは言え、GDPのグロスでは世界第3位の「巨大な経済圏」です。にも関わらず、産業界が変われないのであればその経済圏に触手を伸ばしてくるのは外資です。

その結果として、80年代までは世界一であったエレクトロニクス産業に見る影もなくなったり、日本文化と日本語という独自性のあるエリアからのコンテンツ制作・発信まで外資に奪われるというのは「行き過ぎ」です。

人口問題などもあって、日本経済の衰退というのはもはや避けられないのかもしれませんが、その衰退を「必要以上に加速する」ことで、日本人全体が「無駄な不幸を深めていくのは問題だと思います。

私は保護貿易論者ではありませんし、グローバル経済による価格や技術の「最適化という効果は重要だと思っています。

ですが、日本の場合は「グローバル経済の世界では戦えない」構造を放置しておきながら、政策としては「自由経済がいい」などという発信を行なっている、これは実におかしなことです。自由貿易がいいのなら、そこで勝てる体制少なくとも自国の市場ぐらいは外資に取られない最低限の改革はすべきではないでしょうか。

image by: Bogdan Glisik / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 民放の地上波TV終焉か。Netflixの攻勢で加速する負のスパイラル
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け