国際交渉人が解説。マクロン大統領「NATOは脳死状態」発言の意味

 

そのような欧米関係新時代を模索している際に、その議論と機運に水を差したのがBrexitです。Brexitにより、欧州の結束は緩み、また延長が繰り返される離脱期限交渉は、確実にEUから統合維持のためのモメンタムを奪い去っています。その状況に大きなフラストレーションを感じての発言が、冒頭のマクロン大統領の脳死発言だと思われます。

しかし、現実は、アメリカに対抗するのであれば、フランスもドイツも、そして他の25か国の欧州諸国も、英国が必要であるという“事実”がより顕著になってきました。すでに英国はかつての力を失ったと言われていますが、歴史的に持つ調整力はいまだ健全で、米英のGrand Allianceは欧米の結束を維持するための大事な橋として機能してきました。しかし、英国のEUからの離脱(Brexit)はその橋さえも破壊しかねない状況をEUに突き付けており、EUにとっては非常に不幸な状況と言わざるを得ないでしょう。

そこに今、さらなる止めを刺しそうなのが、トルコのエルドアン大統領からの挑戦です。エルドアン大統領を切れさせたのは、長年、EUとトルコの間で領有権が争われている問題であるキプロスの扱いを巡る大きなズレです。

『北キプロスはトルコの固有の領土である』との主張を変えないエルドアン大統領ですが(どこかでよく似た話を聞いた気がしますが)、EUはその立場を認めず、『キプロスはすでにEUの一部』との主張を繰り返しています。結果、実力行使でしょうか。トルコによるキプロスにおける海底油田採掘という強硬手段が火種となり、EUが対トルコ制裁を発動するなど、争いは過激化の一途をたどっています。

加えて、エルドアン大統領を苛立たせているのが、欧州へのシリア難民の流入を食い止めているのはトルコであるにもかかわらず、それに対する負担の共有もなく、トルコのEU加盟申請手続きも長年滞っていること、そして、先のシリア北東部への侵攻によるクルド人武装組織の追放へのEUからの激しい非難などもあり、『あとはもう知らん!』と言わんばかりに、トルコに留めおいてきた欧米各国籍のIS戦闘員をそれぞれの本国に突如送り返すという“仕返し”に出ました。

すでにアメリカ人が一人、ドイツ人が一人送還されていますが、このトルコの“暴挙”は、ただでさえBrexitやナショナリストの台頭により揺れに揺れている欧州各国の内政をさらに混乱させることに発展しており、今度こそはEUは終わりだ!との声が聞こえてきています。

print
いま読まれてます

  • 国際交渉人が解説。マクロン大統領「NATOは脳死状態」発言の意味
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け