【書評】なぜ、この医師は大晦日と元旦に「棺桶」へ入るのか?

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すべての人間に平等に訪れる「死」ですが、「死に方」は平等とは言えないというのが現実。ならば「理想の死に方」でこの世を去りたいと思うのも人情です。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、週刊文春が編集した14人の著名人の「理想の死に方」をまとめた一冊。そんな中で柴田さんが共感したのは、ベストセラー作家でもある医師・中村仁一氏の考え方でした。

偏屈BOOK案内:週刊文春 編『私の大往生』

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週刊文春 編/文藝春秋

「大往生」を〈「広辞苑」で引くと〉なんて、文藝春秋が言ってる。まあいいか、慣用句みたいなもんだから。でも、「大往生」って「十分に寿命を全うしたので、満足に思います」という意味で、身内だけが使えるセリフだろ。他人が遺族に対して使うのは失礼である。ましてや、本人が「私の大往生」なんて言うわけがないだろう。恥ずかしい。……意地悪で難癖つけてみました。

週刊文春が、人生を達観した先達たちに「理想の死に方」を尋ねる連続インタビューを行い、それをまとめたもの。中村仁一、渡邉恒雄、外山滋比古、佐藤愛子、酒井雄哉、やなせたかし、小野田寛郎、内海桂子、金子兜太、橋田壽賀子、出口治郎、高田明、大林宣彦、柳田邦男の14人。インタビューは、それぞれの死生観をうまく引き出す。その後の「大往生アンケート」6問は愚問。

中村仁一(医師)の「理想は孤独死野垂れ死に』」に激しく共感する。大ベストセラー『大往生したけりゃ医療とかかわるな』の著者。穏やかで安らかに死にたい、というのが多くの人にとって理想だ。それが自然死(実態は餓死)で、不安もなければ寂しくもない。いい気持ちのまどろみの中で死んでいける。放っておくと全部穏やかに死ねるように、自然の仕組みはできているのだ。

今の医学はすべて自然死に逆行している。例えば「胃ろう」で、患者の身体は気持ちよく死のうとしているのに、あえて苦行を強いて生かしている。医療は老いには無力だ。治せないにもかかわらず治そうとする。結果的に本人に苦痛と負担を与えている。しかも、1分1秒でも長く生かすのが医療の使命になってしまっている。病院では「自然死」というのはありえない。

いっぽう介護職でも、食べさせるというのが使命で、患者がいやだというのに長時間かけて、高カロリーの脂っこいものを無理やり押し込む。拷問である。患者は物凄く苦痛であろう。さらに家族は、患者を支えているかと思いきや、自然死の大きな障害になる。いま人間の死に方は、本人ではなく殆どが家族の意向で決まる。病院で診てもらうことで納得して、安心したいだけなのだ。

「長期間にわたって強制人工栄養を注入していると、関節が拘縮して、最後はこれが人間か、という姿になってしまうんです」。そこでようやく家族が気付く。どんな形でも生きていてほしい、というのは家族の都合であって、本人の意向ではない。死ぬよりもつらいことを強いて、本人を苦しめている。これは恐怖である。わたしは家族に、事前にしっかりと伝える。楽に死なせてくれ。

死を見つめるとか、向き合うとかは絶対に無理デス。きれいごとの言葉で何となく分かったような気がするだけだ。一年の計は棺桶にあり、という中村は段ボール製の棺桶を入手、大晦日と元日に入って、自分の過去を振り返る。どれだけ周りに支えられて生きてきたかがわかる。今年はどう生きるかを確認する。一年の計は棺桶にあり。閉所恐怖症気味なわたしなど、絶対パニクるな。

中村はがんを「非常に良い病気」と言う。経験上、放置されたがんは痛みがないという。比較的最後まで意識があるので、身辺整理ができる。親しい人にお礼とお別れがいえる。下手に治療すると、早期発見だったとしても再発に怯えながら生きなければならない。老人なら手遅れの方が幸せだ。知らない間は明るく普通の生活をし、最後は消えるように逝ける。あ、これに決めた。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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