タワマン水没で露呈した、武蔵小杉と二子玉川の「致命的な弱点」

2019.12.12
 

二子玉川では、多摩川の堤防が決壊したのではなく、無堤防の場所を越水してマンションが被災した。

二子玉川は東急線の田園都市線と大井町線が乗り入れ、高級感ある高島屋や東急系のライズといったショッピングセンターもある、世田谷区でも有数のセレブな雰囲気を持った街である。

東急電鉄の二子玉川駅

東急電鉄の二子玉川駅

高級マンションが、元は多摩川に面した川魚を食べさせる料亭の跡地などが再開発された場所に、幾つか建っているが、東急の線路のすぐ北側、最も川に近い道沿いのマンションが浸水被害に遭った。

料亭は川の見晴らしを重視したので、歴史的に多摩川の堤防建設にずっと強く反対してきた。やむなく、国土交通省では80mほど内側に堤防を造成。その上は多摩堤通りとなっている。従って、正確には多摩川の堤防はないのではなくて、堤防の内側、つまり河川敷にマンションが建っていたようなものだ。なぜ、こんなところに建てたのか。理解しにくい立地である。

10月14日の二子玉川、多摩川沿いの水が引いたマンション街

10月14日の二子玉川、多摩川沿いの水が引いたマンション街

多摩川は、隣の大きな川では暴れ川で知られる荒川や鶴見川に比べれば穏やかで、そんなに氾濫する川ではない。しかし、1974年9月には台風16号のもたらした大雨で、すぐ上流の狛江市では堤防が決壊し、19戸の家屋が流されている。幸い死傷者はなかったが、河川を管理する国が洪水の危機感を募らせるのは当然で、京浜河川事務所では住民説明会を何度も開いて、堤防の必要性を説いてきたという。

しかし、桜並木や松林を伐採する環境保護の観点、百年に一度の災害に備えるのは非現実的などの住民の意見があり、なかなか堤防の着工に取り掛かれなかった。反対派住民は堤防建設反対の裁判まで東京地裁に起こして抵抗したが、結局は却下され、東急の線路の南側の堤防は2010年頃までに整備されている。残った線路の北側も、交渉が続けられ、ようやく7月に合意し、これから調査を始めようとした矢先の出来事だった。

二子玉川駅の下流側は堤防が既に築かれている

二子玉川駅の下流側は堤防が既に築かれている

越水した場所は、多摩川と支流の野川の合流地点にあり、大雨になれば水量が一気に増える危険な個所である。

越水した無堤防の場所周辺

越水した無堤防の場所周辺

普段は風光明媚で野川には橋が掛かっており、兵庫島と呼ばれる三角州の先端部分の公園に渡れる。

兵庫島から越水した地点側のマンション街を望む

兵庫島から越水した地点側のマンション街を望む

京浜河川事務所によれば、「無堤防とは言っても少し土地が高くなっているから、越水するのはよほどのこと」とのことだが、あり得なくはないから堤防の必要性を説いてきたのだ。

被災マンション、6階建「カメリアコート二子玉川」の地下1階にあった歯科は、水浸しになって懸命な復旧作業を行っているが、再開には時間が掛かりそうだ。

水害を受けた歯科医院

水害を受けた歯科医院

しかし、隣の27階建「プラウドタワー二子玉川」1階に入居するカフェは、川沿いから少し入った、緩やかな坂道を上がった場所にあり、水が来なかった。1つ隣の建物で天国と地獄。残酷な現実だ。

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