タワマン水没で露呈した、武蔵小杉と二子玉川の「致命的な弱点」

2019.12.12
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各地に甚大な被害をもたらした台風19号ですが、中でも「セレブタウン」と称される武蔵小杉や二子玉川のタワーマンションを襲った「水害」がセンセーショナルに報道されました。一方、立地については両地と共通点が多い埼玉県川口市のタワマンからは、さしたる水の被害の報告はありません。その差はどこから生じたのでしょうか。前回の記事「洪水を阻止せよ。暴れ川の氾濫防いだ日産スタジアム異次元の備え」で、鶴見川の治水対策を紹介したフリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんが、何が武蔵小杉・二子玉川と川口の明暗を分けたのか、現地取材を敢行し詳細に分析・考察しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

武蔵小杉・二子玉川と川口「タワマン大水害」の明暗が分かれた原因

今年の台風19号は、過去最強クラスと言われ、各地で水害をもたらしたが、首都圏では多摩川水系に被害が集中したのが1つの特徴だ。特に、武蔵小杉と二子玉川は平成になって発展した、庶民が憧れるセレブタウンで、「失われた20年」と言われる日本の停滞期に資産形成した勝ち組が集住する、タワーマンションが立ち並ぶことで知られているが、思わぬ水害に見舞われて脆弱性が露呈している。

一方で、埼玉県の川口もまたタワマンの多さでは引けを取らないが、たびたび洪水を起こしてきた荒川に面し、かつての工業地帯で土地も全般に低くて雨水が溜まりやすい地形であるにもかかわらず、下水道や遊水地の整備が進んで、被災を逃れている。どうして明暗が分かれてしまったのだろうか。

武蔵小杉には11棟のタワマンが林立するが、そのうち2棟で停電が発生し、電動のポンプも使えなくなって水道までもが止まった

武蔵小杉は東急東横線・目黒線とJR南武線が交差する交通の要地で、川崎市中原区の中心地。ショッピングセンターのららテラス、東急スクエア、ダイエー系スーパーのフーディアムなど、市内でも川崎駅周辺部に次ぐ商業集積を持っている。中原区役所、市立中原図書館も駅前にある。

武蔵小杉駅前のタワマン群

武蔵小杉駅前のタワマン群

2010年には横須賀線の駅が開業し、現在は湘南新宿ラインに加えて、相鉄線と埼京線への直通電車も停車する。電車で、渋谷、品川、横浜にそれぞれ15分程度と、利便性が非常に高い

武蔵小杉駅中央口2を出れば眼前にセレブなタワマン群が広がる

武蔵小杉駅中央口2を出れば眼前にセレブなタワマン群が広がる

元々は多摩川の水利を活かした工場街で、現在は地方や海外に移転した企業も多いが、今も日本電気(NEC)の工場から転用したオフィスビルや研究所などがある。工場ができる前は、下沼部という地名が示すように、多摩川の旧流路であり、水が溜まりやすい低地の湿原だった。

撤退した工場の跡地が、タワマン街となった。ここ10年ほどで急速に発展し、計6,700戸ほどが入居しており、今も建設中、計画中のタワマンも数棟ある人気タウンとなっている。一方で、保育園の数や駅の設備増強が追い付かず、保育園に落ちたとか通勤時の改札口の混雑が半端ないといった、住民の悲鳴が聞こえるようになった。

川崎市上下水道局によれば、武蔵小杉駅周辺部で起こった冠水は、多摩川の堤防が決壊したり、水位が上がって堤防を越水したりしたものではなく、多摩川の水が下水道を通って逆流してきたものだ。なぜなら、冠水した地域には大量の土砂が入ってきており、多摩川から来たと考えられるからだ。

水道局の職員が、10月12日の夜、地域の下水を集めて多摩川に放出する山王排水樋管を閉める前に、中原消防署前と横須賀線口(新南口)バスターミナル入口、2ヶ所の交差点付近のマンホールから、下水が逆流して噴出するのを確認している。武蔵小杉一帯では、最大で1.4mの浸水があった。深刻な災害をよそに、ハイテンションになっている住民もいたようで、海水パンツ姿で浮輪を浮かべて水遊びをする猛者も出現した。

この地域のタワマンはかつての工場街の下水道インフラの上に、建てられている。台所、トイレ、風呂などの生活排水も雨水も一緒に、下水処理場に送られる旧型の合流式下水道を採用。大雨が降って下水処理場の能力を超える場合は、その分の生活排水と雨水が多摩川に放流される仕組みだ。

今回は放流しようとした下水が、多摩川の水位が想定以上に上昇したため、川の水と共に逆流し、内水氾濫を起こした。従って、武蔵小杉を覆った泥水は、多摩川の水に、希釈化された生活排水が混じった混合物ということになる。

ただし、14日夕刻に武蔵小杉を訪れたところ、泥に塗れた道でも、異臭が立ち込めた場所は確認できなかった。台風通過直後にはあったのかもしれないが、速やかに処理されていたということだろう。

10月14日、水が引いた武蔵小杉界隈

10月14日、水が引いた武蔵小杉界隈

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