タワマン水没で露呈した、武蔵小杉と二子玉川の「致命的な弱点」

2019.12.12
 

ところで、武蔵小杉と同様に昨今、元工場街で東京都に隣接し、タワマン建設が盛んな都市に埼玉県川口市がある。その中心部、川口駅は京浜東北線で赤羽の次の駅であり、駅の近くには百貨店の「そごう」や、イトーヨーカ堂系のショッピングセンター「アリオ川口」がある。買物の環境も便利だ。市役所、図書館も近くにあって、荒川がすぐ近くを流れているなど、共通する点が多い

川口駅と周辺のタワマン街

川口駅と周辺のタワマン街

市内には川口駅前を中心に20棟余りのタワマンがあるが、今回の台風19号ではさしたる水害が報告されていない

川口が水害を逃れた理由の1つには、一昨年7月、アリオに隣接する並木元町公園の地下に、大雨に備える巨大な雨水調整池を建設したことがあり、アリオやその周りに建設されたタワマンの住民を守った。川口市によれば、5,800t(25mプール16杯分)の雨水が溜められ、雨が上がってからポンプで下水に戻すが、今回は最大でほぼ100%、満杯まで行ったとのことだ。調整池がなければ、アリオ周辺一帯から駅前までにかけて冠水した可能性が高い。

アリオ川口に隣接する公園の地下にある雨水調整池が水害から街を守った

アリオ川口に隣接する公園の地下にある雨水調整池が水害から街を守った

このあたりは2009年8月の台風9号で、川口駅前など中心街を通る「産業道路」で30cmほどの冠水に見舞われるなど、土地が低く水が溜まりやすい地形になっている。その課題にきちんと対処してきた。

川口市では、平成に入ってから市内に他に4ヶ所の雨水調整池を建設しており、なんとかして大雨が降った時の下水の氾濫を抑えようと、真剣に取り組んできた成果が表れたと言えるだろう。

また、荒川の洪水対策も川口あたりでは、すぐ上流の国が整備した戸田市からさいたま市桜区に至る、全長8kmの荒川第一調整池などが機能した。荒川第一調整池の一部は人工池の彩湖になっている。しかし、今回は3,900万立方メートルの貯水量に対して、3,500万立方メートルまで溜まり、ギリギリに近く危なかった。第二~第五の調整池も一部着工、計画されており、台風の昨今の大型化を考えると、早急に整備を進めてほしいものだ。

第一調整池があれば十分、お金の無駄遣いだからその分を福祉に充てよなどといった、環境・市民団体の強固な反対意見もあるようだが、洪水が起こって人命、家が失われれば福祉も無意味である。

東京都でも、神田川の支流で杉並区と中野区を流れる善福寺川が、氾濫を繰り返す川として地元では恐れられてきたが、2005年9月には台風14号で、1時間に100mmを超える集中豪雨により、2,000世帯以上が浸水する被害が発生した。

そこで、東京都では川の氾濫を抑えるため、都立善福寺川緑地公園の地下に35,000tの雨水を溜められる調整池を建設。護岸整備も進めた。また、それ以前より、平成初頭の頃より約20年をかけて、善福寺川、神田川、妙正寺川といった3つの河川の水害対策として、環状7号線の地下に、延長4.5km、内径12.5mのトンネルを建設し、54万tの水が溜められるようになっている。

こうした対策が実って、今回はこれらの河川で水害は免れた。東京都によれば、善福寺川緑地公園も環状7号線も、地下調整池の水位は90%ほどに達したとのことだ。地下調整池がなければ、洪水になっていた可能性が高い。

川崎市も今回のタワマン街の大規模浸水を奇貨として、駅前バスターミナルや綱島街道の地下を雨水調整池として整備するなど、抜本的な洪水対策を打ってほしいものだ。武蔵小杉の住民からは、山王排水樋管の水門を閉めるタイミングが適切だったか、川崎市の責任を問う声もあるが、もっと早くに閉めれば、今度はあれだけの雨量ならば地域の下水だけで溢れてしまっていた可能性があって、難しいところだ。

武蔵小杉のタワマン業者は、街と建物は整然とゴージャスにつくったが、電気や水道、特に下水のインフラに対する詰めが甘かった。環境に配慮した設計、ホテルライクな快適な住み心地と眺望は嘘、偽りなかったが、先進国なら衛生的に気づくべき低地の下水の整備にまでは、思いが至らなかった

二子玉川に関しては、そもそも野生の河原にタワマンを建てたようなものなので、粛々と堤防を整備すれば、問題ないだろう。

台風19号の被災によって、タワマンの価格は落ちるのか。マンション市場に詳しい不動産経済研究所調査部によれば、「このまま住み続ける人がほとんどで、投資で買っている人も、売るとすれば騒ぎが収まってからだ。暴落は起こっていないし、影響は限定的にとどまる」と予想する。

中古マンション物件に詳しい東京カンテイも「現状、売り物件の動きはない。しばらくすれば、結局は利便性の良さが見直されていくだろう」と、やはり影響が出ても限定的だとの見解だ。

東日本大震災で液状化現象が見られた、新浦安など湾岸エリアのタワマンでも、一時期は3割ほど安くなったが、今は戻してきている。確かに浸水被害は受けたが、耐震性が問題視されたわけでもないというのが理由だ。

国土交通省と経済産業省は共同して、タワマンやオフィスビルの電気設備の浸水対策に関する指針づくりの検討に入った。「建築基準法には、耐震、防火のルールがあるが、浸水対策はなかった」(国土交通省)との反省に立った。今後、建設されるタワマンは、水害に強い設計になるだろう。

image by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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