現役医師が詳しく解説。悪夢の細菌「薬剤耐性緊急脅威菌」とは?

 

悪夢の細菌、そして薬剤耐性淋菌

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌は「悪夢の細菌」と呼ばれている。ほとんど全ての抗菌薬が効かないからだ。体内にカテーテルが入っている患者さんでリスクが高い。血管内に留置されたカテーテルに沿って血液中に侵入し感染をきたすと死亡率が高い

薬剤耐性淋菌は性行為感染症をきたす。淋病だ。性行為により、膣や尿道、口腔、肛門の粘膜に菌が侵入して感染する。男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎をきたす。合併症として、不妊症や異所性妊娠をきたすことがある。HIV感染症にかかりやすくもするのだ。これまで効いていたさまざま抗菌薬、特にセフトリアキソンという抗菌薬が効かないことで世界的に問題となっている。

淋菌だけでなく梅毒などの性行為感染症が世界的にも増えている。大きな原因はHIV感染症の予防内服が普及したためだ。HIV感染予防の薬を飲んで安心し、コンドームを使わなくなったのが大きい。薬では淋病や梅毒は予防できないので、コンドームを使うべきなのだ。

新規に緊急脅威となった菌たち

アシネトバクターとカンジダ・アウリスは今回のレポートで新たに指定された。このうちアシネトバクターは、院内感染を起こすカルバペネム耐性菌だ。環境中に長く生存できるので、病院の中で広がりやすい。肺炎、尿路感染、カテーテル感染、そして手術後創部感染などもきたす。

カンジダ・アウリスは日本人の研究者によって初めて記述されたカビだ。2009年に東京都健康長寿医療センターに受診した70才女性患者の耳の分泌液から分離され命名され報告された。さらに過去にさかのぼって分離されていたカンジダ菌を調査することにより、遅くても2004年にパキスタンと韓国で出現していたことがわかった。

カンジダ・アウリスは急速に世界に広がっており、現在では南極を除く全ての大陸で確認されている。病院や介護施設で容易に拡大し、致死的な感染症をきたす耐性菌だ。

この薬剤耐性緊急脅威菌が次々と出現して世界に広まった原因は我々自身にある。抗菌薬の過剰使用だ。対策はこの原因を抑えること。抗菌薬を適正に使うことだ。医療提供者は、風邪や単純な気管支炎、副鼻腔炎、中耳炎などに原則、抗菌薬を使わないこと。患者さんは、抗菌薬をむやみに要求しないこと。予防接種を受け、手洗いをすること。性行為ではコンドームを使うこと。日常での心がけが大切なのだ。

文献:
2019 AR Threats Report. CDC’s Antibiotic Resistance Threats in the United States, 2019.

image by: Shutterstock.com

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