アフガニスタン政府はカヤの外。米国とタリバン和平合意の意味

 

アメリカサイドは、この合意についての発表後、自らのコミットメント部分については迅速に行動し、発表後すぐに合意への支持を国連に要請し、またペンタゴンに対して14か月以内の撤退案を具体的に練るよう指示を出しました。また経済制裁の解除についても、『アフガニスタン政府との対話が行われ、和平に合意されるという条件』を示したうえで、具体的な検討に入ったようです。

しかし、今回の和平合意の内容に難色を示したのが、アフガニスタン政府のガニ大統領です。なぜでしょうか。

アフガニスタン政府は合意内容に難色

第1に、2018年以降、アフガニスタン政府は和平交渉には参加しておらず、実質的には蚊帳の外に置かれ続けてきたという実情があります。今回、特に問題になったのは、最後の『捕虜の交換を3月10日までに行う』という内容で、ガニ大統領曰く「そのような内容を確約した覚えはない」とのことで、このままでは、アフガニスタン政府とタリバンとの間の信頼醸成の基礎として位置づけられていた“捕虜交換”が成り立たず、いきなり話し合いが暗礁に乗り上げる可能性が高まりました。

捕虜については、アメリカの情報筋とアフガニスタンの情報機関によると、アフガニスタン政府が拘束しているタリバンの捕虜は1万人ほどに上るようですが、今回の“合意”では、その半分が3月10日までに解放されることになっていました。しかし、ガニ大統領サイドはこの内容についても否定的な見方をしているようです。

どうしてこのような齟齬が生じたのでしょうか。理由の一つにアメリカサイドが、この捕虜の交換という要件について、ガニ大統領とタリバンに対して行った説明内容に食い違いがあるらしいということです。

先述のように、アフガニスタン政府は2018年以降協議からは蚊帳の外に置かれ、あくまでも協議内容をアメリカ政府から報告されるという形式だったため、2月29日の合意直前まで内容については知らされておらず、同日、アメリカ政府と共にアフガニスタン政府が出した声明にはあくまでも「捕虜開放についての協議に“参加する”」という内容が書かれているだけで、捕虜交換については確約していないとアフガニスタン政府は主張しています。

今回の合意で描かれた『3月10日に捕虜交換を行ってから、アフガニスタン政府とタリバンの直接対話が開始されるというシナリオ』は、いきなり頓挫する見込みで、和平合意の実現は困難に思われます。

2つ目に、今回の和平合意はアメリカとタリバンの武装組織との間の合意ですが、国際法上、そもそも非政府組織であるタリバンに、アメリカ合衆国という主権国家と、アフガニスタン政府が存在するにも拘らず、合意主体として合意を結ぶ権限があるのかという疑問が、この問題を難しくしています。

先ほど、『アフガニスタン国内で実権を握っているのはタリバンで、タリバンと駐留米軍がともに矛を収めない限り、和平はない』と書きましたが、停戦合意ならいざ知らず、和平合意を、それもどうしてアメリカとタリバンの間で結んだのかが謎に思えます。ちょっと穿った見方をしますと、これは【アフガニスタン政府は、アメリカ合衆国の傀儡にすぎず、実質的な決定権はない】という“噂”を肯定することになってしまい、アフガニスタン政府の顔を完全につぶすことになってしまいます。

もしこの“噂”が本当であれば(まあ、皆、それには気付いているのですが)、3月10日に“予定通りに”アフガニスタン政府とタリバンとの対話が始まったとしても、駐留米軍とワシントンからの“指令”や後ろ盾がない中での合意内容の履行はかなり難題であると言えるでしょう。

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