アフガニスタン政府はカヤの外。米国とタリバン和平合意の意味

 

タリバンとの和平合意。アメリカの思惑は?

では、そもそもなぜこのタイミングでアメリカはタリバンとの和平合意に踏み切ったのでしょうか。それもまだアフガニスタン国内で治安状態に大きな不安がある状態で、どうして駐留米軍の撤退を約束したのでしょうか。アフガニスタンを巡る現状に鑑みると、時期的に非常に不可解です。

私の見解はこうです。タイミング的には、2020年はアメリカ大統領選挙の年で、これまでオバマ政権(民主党政権)でなし得なかったタリバンとの和解をアピールし、そして自らが掲げた公約を実行するイメージを与えることで、政治実績を作り、11月の大統領選挙本番に向けて、合意の内容が曖昧なまま、合意推進に舵を切ったのではないかと考えられます。

もし、そうだとすれば、北朝鮮と行っている非核化交渉と全く同じで、詳細については特に合意も共通認識もないまま、合意をアピールしてしまったという過ちを繰り返したことになるでしょう。シンガポールでの第1回目米朝首脳会談の実施はとてもセンセーショナルでしたが、事前調整をじっくりと行わず、詳細を事務レベルに丸投げする政治ショーであったがゆえに、今も何一つ具体的な非核化に向けた進展はなく、結果として、金体制に時間稼ぎと核開発・ミサイル開発のチャンスを与えることになっています。

アフガニスタンの情勢は、核ミサイルとは関係ないとしても、18年にわたる戦いの歴史と生じた傷ゆえに、和平を実現するための道はかなり険しくなり、共通認識がないまま“合意”という文言のみが先走り、もしかしたら、さらなる悲劇と衝突を生む可能性が見えます。

とはいえ、ポジティブに捉えられる点もあります。例えば、18年間のアフガニスタン国内での混乱の主要因は、根拠なき(正義無き)アメリカによる侵攻に始まり、その後、アメリカ主導での政府樹立という“国内の意思を無視した”暴挙だと考えられますので、今回、駐留米軍の撤退を行うことで、張り詰めた状況に対する“空気抜き”の効果はあるかもしれません。

イラクもそうですし、アフガニスタンもそうですが、大したグランドデザインや未来像を描いてもいないのに、武力で侵攻するという、アメリカ特有の大失敗と言えますから、アメリカが『タリバンに“負ける”形』で撤退することは、一種の状況のリセットと呼べるかもしれません。まあ、悪く言えば、アメリカが散々かき回してめちゃくちゃにしておきながら、後片付けを押し付けるという典型例にも思えますが、もし、アメリカ軍の撤退が『アメリカの影響力の“撤退”』を意味するのであれば、空気抜きは、アフガニスタンの未来にとっては、時間はかかっても、ポジティブに働くでしょう。

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