アフガニスタン政府はカヤの外。米国とタリバン和平合意の意味

 

アフガニスタンの和平実現に日本が果たすべき役割

しかし、大変なのは、“当事者”の一人であるガニ大統領の再選を巡る国内政治の混乱で、これは今後のタリバンとの対話の基礎を崩しかねません。彼自身は自らの2期目の就任を高らかに謳っていますが、選挙における不正の痕跡が数多く見つかり、大統領の周辺からも異論が湧きだしていることから、『タリバンとの対話において、アフガニスタン政府側のトップの基盤が揺らいでいる』というとんでもない状況をどうするのか、全く先が見えません。

ガニ氏は自らの勝利を宣言していますが、混乱の中、未だに2期目の就任式を開催できず、現時点では、2期目の就任も延期されている状態ですから、3月10日にスタートするとされているタリバンとの対話も、どこまで実効性があるものか疑わしいところです。

今回、アメリカはタリバンとの間で和平合意を作り、2月29日の発表後、迅速に自らのコミットメント部分については動いていることから、『アメリカがアフガニスタンでの混乱から一抜けする』という方向性には変わりがないと思われます。つまり、だれもアフガニスタン国内でその実施を担保するpowerが存在しないという状態になり、かなりの混乱が予想されます。

では、このような不透明な先行きにおいて、和平を実現するためにはどうすべきでしょうか。一つの方法は、アメリカの離脱を遅らせて、アメリカ政府とアフガニスタン政府、そしてタリバンの三者間で合意内容の詳細を詰め、共通認識をつくという『交渉』を丁寧に行うことでしょう。必要であれば(私は不可欠だと思いますが)調停官を立てたプロセスを走らせることでしょう。

和平実現において、私は、実は日本が果たし得る役割に非常に期待しています。ご存じの通り、戦後のアフガニスタンにおいて、復興支援国会議のホストを何度も日本は務めてきました。また最近お亡くなりになった人道支援のカリスマといってもいい緒方貞子元国連難民高等弁務官が、日本政府代表として、アフガニスタンの復興に向けた努力をサポートされたこともあり、アフガニスタンの和平を取り持ち、復興に向けた努力をサポートする素地が、物理的にも、政治的にも、また現地の心理的にも、まだ存在しています。

昨年末には、アフガニスタンの復興のために長年働き、アフガニスタンでは英雄視されていた中村哲医師が凶弾に倒れました。実行犯についても、その動機についてもわからないままですが、中村先生が遺された精神とインフラ、そしてアフガニスタンにおける信頼は、まだまだ健在で、彼と一緒に仕事をしたアフガニスタン人に引継がれています。

最近、日本政府が人道支援にかける予算が減少していると聞きました。COVID-19との戦いや東日本大震災、台風被害などからの復興をはじめ、多くの難題を抱える日本ですが、【地球儀を俯瞰する外交】、【アジアの友人としての日本】、【協調を重んじる日本】という外交目的を掲げるからには、ぜひ具体的な支援と貢献、そして“武力によらない”国づくりを行うことが出来る実例として、ぜひアフガニスタンの和平の実現に、主導的に貢献してもらいたいと思います。

国連紛争調停官時代、私もアフガニスタンの復興の一端を担うチャンスをいただきました。カブールやカンダハールで観た風景、一緒に国の再興のために奔走した現地の皆さんのことを思い出しつつ、私もできるだけの貢献をしたいと思いを新たにしています。

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