その原因ですが、何と言っても「官民合同で対策に当たる」という方針をパフォーマンスとして示したことに尽きます。その柱は、「検査体制の充実」でした。この日の大統領の説明は次のようなものでした。
1.ロシュ社の開発したPCRのスピード検査キットを緊急承認する
2.民間の医療保険業界との協議により、PCR検査の自己負担をゼロにする
3.グーグルが全国規模のサイトを作って、検査場所へ誘導する
4.量販店、ウォルマートとターゲットは共同で「ドライブスルー検査」の体制を組む
5.大手検査会社「ラボコープ」と「クエスト」も共同で検査処理体制を作る
ということで、政府内の専門家3医師によるスピーチに続いて、この各社(グーグルを除く)の会長が順次短いスピーチをして協力を約したのです。
大統領の説明は、これまで批判が多かった検査体制を充実させることで、イタリアではなく、韓国をモデルにして「検査から隔離」の体制を強化させるというものでした。同時に、
6.病院のベッド数規制を緩和する
7.非常事態宣言を受けて、政府予算を投入して人工呼吸器の台数確保や、集中治療ユニットの増設を進める。
ということで、重症者数が拡大しても大丈夫だとしています。更に経済対策としては、原油価格下落に苦しむエネルギー業界を救済するために、
8.緊急で備蓄用石油の購入を進める
としました。できるできない、あるいは本当の意味で効果があるないは、とりあえず分からない中で、以上のことを宣言したのです。とにかく「検査をする」「ベッド数と機械を徹底的に用意する」ということを、専門家、当事者である各企業の会長と一緒に「徹底してやる」と言った、その雰囲気は2日前の「欧州からの渡航禁止」宣言の時とは全く違いました。
とりあえず、この日の会見は大成功で株価は暴騰したのです。
では、そのまま順調に推移するかと思うとそうではありませんでした。
15日の日曜日になって、FBR(連邦準備委員会=中央銀行)のパウエル総裁は、不況突入を防止するために「1%の金利引下げ」つまり「事実上のゼロ金利」にすると表明したのでした。
この「いきなり金利ゼロ」というのは、投資家をはじめ財界も含めて予想外のものでした。しかし、それが裏目に出たのです。パウエル総裁(とトランプ政権)は「予想以上に一気に金利引下げに踏み込めば、事態は好転する」と思ったのでしょうが、甘かったようです。市場は「そこまでやらねばならないほど、事態は深刻なのか…」というムードで受け止めて、日曜の晩から一気に悲観ムードが広がってしまいました。
そして、同時進行で欧州における感染拡大が加速していったのです。これを受けて、トランプ政権は「入国禁止」をEU26カ国だけでなく、当初は除外していた英国とアイルランドにも拡大せざるを得なくなりました。
週明けの16日(月)は、更に事態が進行しています。
まず、CDC(感染症センター)からは全国規模で「50名以上の集会禁止」という指示(強制力はなし)が発動されました。また、最後まで渋っていたNY市内の立学校がこの日から一斉に「リモート授業」に切り替わりました。
更にNYでは、前週に出ていた「500人以上の集会禁止」措置に伴うブロードウェイの閉鎖などに加えて、劇場、映画館、レストラン、バーの一斉閉鎖が始まりました。ちなみに、デリバリーとテイクアウトは営業継続していいことになっています。
私の住むニュージャージー州では、マーフィ知事が16日(月)の夜8時以降について、
「劇場、映画館、レストランとバーのイートインは全面禁止」
「これ以降、夜8時から午前5時までは不要不急の外出禁止」
を宣言しました。こちらでも公立学校は全州で閉鎖、リモート授業に移行となっています。