蔡総統も追悼。なぜ多くの台湾人が志村けんさんの死を嘆いたのか

 

当時の台湾では、地上波の台視、中視、華視が「老三台」と呼ばれ、すべて国民党が牛耳っていました。これに対してケーブルテレビは四番目のテレビメディアとして、「第四台」と呼ばれるようになります。

現在の政権与党である民進党が結成されたのは1986年ですが、ちょうどケーブルテレビの普及時期と重なります。国民党が牛耳る「老三台」に対抗する形で、民進党はケーブルテレビを利用して支持を広げていきました。そしてそのケーブルテレビで志村けんさんをはじめとする日本の番組が海賊版で流され、多くの台湾人に大きな影響を与えたというわけです。

1987年に戒厳令が解かれ、1993年には地上波とケーブルテレビの全面自由化となり、ここで合法なかたちで日本文化も一気にテレビメディアで流されるようになりました。そして1990年代末には、台湾では日本大好きな若者たち「哈日(ハーリー)族」が社会現象になります。台湾の若者はこぞって最新の日本の流行を取り入れ、また、日本を訪れる台湾人も大幅に増加していくのです。

ある意味で、日本の国民的スターである志村さんのお笑いは、台湾においては、民主化、自由化とともに歩んだ象徴的な存在でもあったのです。だから台湾でも志村さんの死去はショックをもって伝えられたわけです。台湾の政界、芸能界からも多くの追悼コメントが出されています。

志村さんにインスパイアされて、「陽婆婆」という面白おかしいお婆さんのキャラクターを作り出してコントを披露している芸人の陽帆氏もその一人です。彼は志村さんを「小さいころからもっとも好きな日本の芸人だった。尊敬できる先輩を失って悲しい」とコメントを出しています。
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催生陽婆婆、合體金城武 志村健來台最後身影曝光 | 電視 | 噓!星聞

台湾メディアは、志村さんと交友があった台湾人の哀悼コメントを掲載、テレサ・テン氏との共演話など、台湾とのつながりを示すエピソードを数多く紹介しています。
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一方で、中国語のウィキペディア「維基百科」では、志村さんの死因が「武漢肺炎」から「台湾肺炎」という表記に改ざんされたということが報道され、台湾人の怒りを生んでいます。台湾のテレビ番組のキャスターは「世界中でこんな恥知らずな行いはない」と激怒しています。まったく卑劣な行為です。
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このように、多くの台湾人は志村さんに特別な感情を抱いているわけです。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。

image by: SkyImages / shutterstock

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