中国の不気味な動き。コロナ禍に浮上した金正恩「重体説」の裏側

 

「平壌の完全封鎖」が意味するもの

その“新たな争い”のフロントラインに立ち、エネルギー安全保障上の覇権を確実にしようとしているのがロシアです。元々欧州に対してはエネルギー上の覇権は確立していましたが、OPECに圧力をかけ、かつアメリカのシェール企業の息の根を止める動きを見せることで、エネルギーを材料にした地政学上の支配構造の確立に動いています。

しかし、これはCOVID-19のパンデミックで世界経済の基盤が大きく傷んでいる状況下では非常に危険な賭けだと考えます。マイナスさえ記録した原油先物価格の著しい下落は、金融市場はもちろん、株式・債権・外貨取引に非常に大きな動揺と混乱を与え、世界経済の回復スピードを大幅に遅延させることにもなりかねません。

米国経済や日本経済、欧州各国の経済といった“先進国の経済”への悪影響はもちろんのことですが、産油国通貨が大幅な下落を続ける中、産油国の財政破綻を連発させかねませんし、産油国の信用リスクを著しく上げることにもなり、それが格付けの低下を招き、各国の資金調達条件を悪化させ、デフォルトの連発という事態へとつながる予測もあります。

そして、元々のロシアの狙いであったアメリカのシェール企業も多くがデフォルトに追い込まれますし、OPECの雄として長年原油価格のスイングプロデューサーとして君臨してきたサウジアラビアも影響力を失うことで、原油市場がuncontrollable(制御不能)に陥ることにもなりかねません。

そのような中、自ら仕掛けた喧嘩をいかに収めるかが、ロシアがコロナ時代の地政学における支配力を保つカギかと考えます。

そんな中、地政学上の構図を変えかねないジョーカー的な存在の一つが北朝鮮です。今週CNNが速報で伝えた【金正恩氏危篤・重体】とのニュースは、さまざまな憶測を呼び、世界に衝撃を与えました。韓国政府は即座に「そのような事実は確認されない。また金正恩氏は通常通り、スタッフと共に地方で活動している」と否定しましたが、情報部の高官は「20日月曜日から21日にかけて、首都平壌が完全封鎖されたことから、何らかの混乱が生じていることは確か」と述べるなど、火種はくすぶったままです。

事実は謎のままですが、23日には米軍統合参謀本部議長が「金正恩氏が軍のコントロール失っているという兆しは全くない。現在でも全軍の統率・コントロールを掌握している」と述べていることから推察すると、クーデターなどの急変は起きておらず、まだ金一族による統制は効いていると考えますが、その統制が金正恩氏によるものなのかは不明だと考えます。

金正恩氏の生存や健康状態にかかわらず、今回のニュースで関心は「ポスト・金正恩氏」に移り、特に注目は実の妹である与正氏の動きに集められています。4月11日の会議では政治局員候補に推挙されていることから、確実に政権のナンバー2になっており、異例のスピードの昇進は、金正恩氏の体調が思わしくなく、金王朝を維持するために与正氏にバトンタッチするのではないかとの憶測を呼んでいます。

そのまま移譲が進めば、好む好まざるにかかわらず“安定”は保てますが、ここでもCOVID-19の感染拡大が大きな暗い影となります。

国際的には公表されることはないですが、北朝鮮も例外なくCOVID-19による大損害を受けており、多くの死者を出しているようです。また感染が発覚すると、強制的に収容したり、処刑したりしているという情報もあり、その行き過ぎた対応は人民の我慢の限界を超え、確実に金王朝の支配の基盤が危うくなってきているようです。

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