誰も得しない。ドコモと販売代理店への行政指導はなぜ起きた?

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総務省は5月29日、今年3月のKDDIと販売代理店に対する指導に続き、NTTドコモと販売代理店70社に対しても、不適切な端末代金の値引きの適正化に関する指導を行ないました。法令遵守が当たり前の日本を代表する大企業が、立て続けにこのような指導を受けるのはなぜなのでしょうか。ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、「改正された法律がわかりにくい」と指摘。消費者が安価に端末を手に入れられる割引を規制し、かえって流動化を阻害していると、改正法の検証を求めています。

総務省がNTTドコモと販売代理店70社に行政指導――そもそも「わかりにくい改正法」に問題があるのではないか

5月29日、総務省はNTTドコモと販売代理店に対して電気通信事業法に基づく行政指導を行なった。販売代理店の数は何と70社にも及ぶという。2019年10月に改正された電気通信事業法では、端末割引などユーザーに対する「利益」の提供に対して制限を行っている。今回の行政指導はその利益提供に対してのものだ。

改正電気通信事業法では、利益提供はキャリアと販売代理店、それぞれのものを合算した金額を対象としている。しかし、キャリアが提供する利益(端末購入サポートやおかえしプログラムなど)とは別に販売代理店が割引きを行ない、上限を超えてしまったことが行政指導の対象となったようだ。

また、改正法では旧通信方式から新通信方式への移行については端末代金を上限とする利益提供が可能だ。これは停波に向かっている3G端末から4Gや5G端末へのマイグレーションを狙ったものであるが、販売代理店によっては、旧通信方式ではなく、すでに新通信方式に対応した端末を持つユーザーに対して、制限を超える利益を提供していたというのだ。他にも、端末代金を超える利益を提供していたケースもあったようだ。

そもそも、「割引をし過ぎて行政指導が入る」という点が理解に苦しむ。本来であればユーザーが安価に端末を入手できるにも関わらず、それを禁じられること自体、おかしなことではないか。また、販売代理店の数社に行政指導が入るというわけではなく、NTTドコモをはじめとして販売代理店70社に行政指導が入るということは、改正電気通信事業法そのものが「誰もが正しく理解できない難解なルール」なのではないか。総務省は、業界の人ですら正しく読み解けないルールを無理やり押し付けていることに気がつかないのか。

実際、総務省が公表した「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン改正案に関する意見募集の結果及び改正したガイドラインの公表」において、UQコミュニケーションズから「本ガイドライン改正案については、曖昧な箇所が多々存在するため、実際に行いたい施策が事業法違反にあたるか否かを即時に解釈することが非常に困難です。具体例等も記載いただいておりますが、その背景となる考え方や、それぞれの関係性が記載されていないことが、解釈を困難にする要因の一つであると考えます」との意見が出ている。

端末販売に対して、ルールを設けるのであれば、わかりやすく誰も納得するルールブックを作るべきだ。ルールブックとして抜け穴だらけで稚拙だからこそ、これだけ多くの販売代理店が行政指導の対象になるのではないか。もはや総務省による端末割引の規制は、つぎはぎだらけで誰のためにもならない無意味なルールになってしまっている。

総務省が端末割引に対して口を出してからというもの、3キャリアの解約率は大幅に低減し、もはや市場の流動性はなくなり、硬直化している。これでは第4のキャリアとして参入した楽天モバイルにとっても不利に働くことだろう。

本来であればユーザーの流動性が起き、競争が加速することで料金値下げにつながるはずだが、今の改正法は、むしろ市場を逆行させているに過ぎない。「端末割引規制は本当に効果があったのか」を早急に検証する必要があるだろう。

image by: pisaphotography / Shutterstock.com

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日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

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