SNS誹謗中傷問題をメディアリテラシー教育の出発点とすべき理由

 

スマートフォンの普及等でほとんどの人が手元にメディアを持つことによる便利さとともに、トラブルも発生しているのは、私が全国の特別支援学校高等部の教員向けにアンケート調査をしたことでも明らかになっている。

各学校でのスマートフォン等のコミュニケーションによるトラブル回避に向けた教育は、地域の警察署から担当者を呼んだレクチャーや携帯電話会社から派遣された社員による使い方講座だったりと工夫もみられるが、それらの講座が治安維持のためであり、産業の活性化のための目的で、「誹謗中傷をしない」というコミュニケーション行為の基本を深く考えるまでには至らないのが現実である。

やはり、それは教育者がやるべき領域だが、学校からは「教育上のガイドラインがない」との嘆きもみられた。コロナ禍の中で自分や大切な人の命を守るために呼び掛けたメッセージが社会に広がることで、発する言葉の効果への関心が高まっている時期だからこそあたらしいメディアリテラシー教育の好機でもある。

亡くなった女子プロレスラーはフジテレビで放送の人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、この番組内での言動に対するSNS上での非難が問題になった。テレビという虚像の世界への反応として、一般社会に普通の顔をした方がSNSの中で架空の自分となり、下劣な誹謗中傷を可能にしている事象は今に始まったことではない。

多感な時に、自分が発信者になれるメディアに触れ、それを正しく活用するために、教育現場や家庭がどれだけの教育をしてきたのだろうか。おそらく大人になってからSNSを使い始めた世代が親の場合、教えるまでの見識も持ち得ないままそのコミュニケーション行為が「そこにあった」状態で、術がないのではないかと思う。

5月29日の毎日新聞社説では「他人を傷つけるような行為は、実社会ではもちろん、ネット空間でも許されない。投稿する前に手を止めて考えてほしい」と結ぶが、手を止めて考える材料を社会が提供しなければならない。教育現場にも家庭でも、真のコミュニケーションを語れる、それを共有化する確固たる社会の意志が必要なのである。

image by: shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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