新型コロナ対策は独裁者や独裁政権を強化することに繋がるのか?

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新型コロナウイルス感染症を封じ込めるために、各国が都市封鎖や国家封鎖に近い状態となり、国民の自由をある程度制限するような措置を取りました。この流れが独裁者や一党独裁体制を強化するという説がありますが、そうとばかりは言えないようです。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、封じ込めに失敗した場合の恐れは独裁者の方が大きいとする説も紹介。感染症を非常に恐れていたという過去の独裁者の姿と現在の北朝鮮の金正恩委員長とを重ねています。

コロナと独裁者

新型コロナウイルス感染症について、「独裁」や「独裁的指導者」に注目し、その功罪に関する論考などが目につきます。3月30日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、「新型コロナ、世界の独裁勢力強めるか──パンデミックの緊急事態は民主主義を弱体化させる機会となる」として、次の記事を掲載しました。

「世界の多くの国々が封鎖状態となる中、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、あらゆる場所で個人の自由を徐々に削り取っている。このパンデミックはまた、民主的な機構と管理手法を弱める言い訳としても使われており、こうした独裁主義化の流れは、現在の公衆衛生上の危機が後退した後も継続する可能性がある」

これに対して、5月21日付のWEDGE Infinityは岡崎研究所の次の論評を掲載しています。

「COVID-19危機が長期的に独裁政権の強化になるか否かについては、若干疑問に思う。独裁政権は、COVID-19危機で権力強化を図り、それが国民にも受け入れられることはあろうが、より大きな権力には国民もより大きな期待を寄せる。独裁政権がCOVID-19を良く抑え込められれば、国民の期待にも応えることになるが、この感染症はなかなか抑え込みにくい。独裁政権は強さを標榜するが、COVID-19の抑え込みに成果を上げないと、国民は政権の無能を言い立て、政権批判に回る恐れも大きい」

しかし、以上はあくまでも一般論であることを理解しておくべきでしょう。それぞれの国の内情だけでなく、国際環境にも大きく左右されるからです。

結論的に申し上げますと、感染症を早期に収束させ、経済活動の停滞を避けるためには、指導者は「独裁的」との批判を怖れず、きわめて短期間に感染拡大を遮断し、その後、可及的速やかに民主的で健全な国家・社会の在り方に戻さなければならないということに尽きると思います。むろん、遮断期間中も「人と人との接触」を制限する以外は、国民の自由を保障しなければなりません。

上記のような論考は、感染症に対する果断な取り組みが、一歩間違えると「独裁者」の世界に足を踏み入れる恐れがあるといった点から、参考にすべきでしょう。

ここで一つ、独裁者がどれほど自分への感染を恐れ、防止措置をとったかのエピソードを、独裁者を身近に知る人物の著作から紹介しておきます。

「◯◯は細菌を極度に恐れ、偏執狂的といえるほど過敏で神経質だ。◯◯のオフィスの外にはつねに医師が控えていて、訪問客をチェックする。きわめて緊密な側近でも、咳は出ないか、鼻水が垂れるような症状はないか、などの質問をクリアしなければならないし、病気の兆候がないかどうか目・鼻・口の検査を受けなければ入室が許されない。テレビで放映される演出のとき以外は、だれも◯◯に触ることはできない」

◯◯とは、イラクのサダム・フセイン大統領。イラクの核兵器開発の責任者だったハディル・ハムザ博士の著書『私はサダム・フセインの原爆を作っていた!』(廣済堂出版)に詳しく述べられています。

ちょっと姿を現しては雲隠れする動きが続いている北朝鮮の金正恩委員長も、同じような措置をとっているのでしょうか。コロナについても、北朝鮮の独裁体制は本当に有効に機能しているのでしょうか。(小川和久)

image by: Muhamad_Firdaus / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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