地方の名店の味を東京で~新サービス開発の裏側
東京・目黒区にある出前館の配達拠点で新たな挑戦が始まろうとしていた。
「地方の有名店のシェフの方と組んで、新しいデリバリー専門店を作ることが目的です」(シェアデリ企画グループ・菅貴美男)
出前代行だけでなく、地方の名店の味を自ら調理して出前で届ける新たなビジネスを展開しようというのだ。
そこで口説き落としたのは仙台「クロモリ」の料理人、黒森洋司さん。「クロモリ」はグルメサイトの評価で4.2という、人気の高級中華店。素材の味を存分に引き出した料理が評判で、仙台でも指折りの、予約が取りにくい店だとか。
料理は仙台の店で仕込み、ここでは仕上げだけ。だから黒森さんの味から外れる心配はない。
「ちゃんとしたものをご自宅に届けるということがこれから必要になってくると思うので、しっかりしたものをご自宅に届けたいです」(黒森さん)
自分の味を東京で、しかも出前で。それは黒森さんにとって大きなチャレンジだ。もちろん出前館にとっても、名店の味を損なわずに出前できるかの勝負となる。
黒森さんが腕を振るった料理が完成した。唐揚げは、「森林(しんりん)どり」という宮城のブランド鶏を使っている。黒森さん特製のタレで仕上げた豚の角煮も。
料理を袋に入れて車に積み込む。実際の出前の時と同じ状態にするため、車で30分かけて試食会場である丸の内の出前館・本社へ。
中村が手にしたのは担々麺。いつも麺類を真っ先に試食する。冷めたり、伸びたりしていると、せっかくの味が台無しになってしまうからだ。
「麺の食感、非常に弾力が残っていて、デリバリーの中では最高位にくるんじゃないか」(中村)
自ら料理作りに乗り出した狙いを、中村はスタジオでこう説明した。
「地方の名店さんは全国に名を広げにくい。しかもイートインはコストがかかる。デリバリーによって、全国に店を広げるお手伝いをするという考え方です」
今年3月、出前館はLINEと資本業務提携し、300億円の出資を受けると発表した。将来を見据えて、巨大SNS企業と手を組んだのだ。
~編集後記~
中村さんは、シックなスーツも、出前館の制服も、よく似合った。出前は新型コロナウイルスの影響もあり、今や外食で唯一、業績を伸ばしている。
LINEが300億円を出資し、新社長も送り込み中村さんは会長になるそうですが、出前館を離れたりしないですよねと聞くと、え? どういうこと、という表情になった。出前館を離れることなど考えていない。300億円は何に使いますか、という質問には「システムを整備するなどします」と、うれしそうに答えた。
ウーバーイーツとの闘いにも負けはしないだろう。出前の申し子なのだ。
<出演者略歴>
中村利江(なかむら・りえ)1964年、富山県生まれ。1988年、関西大学文学部卒業。リクルート、ハークスレイ(ほっかほっか亭)を経て、2001年、夢の街創造委員会(2019年、出前館に社名変更)取締役に就任、2002年より同社社長。2010年CCC取締役転出。2012年、出前館社長に復復帰。
(2020年4月30日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)