事実上の香港併合で崩壊した一国二制度。台湾は生き残れるのか?

 

この国家安全維持法ですが、中国が返還後の香港を特別行政区とし、香港に施行するための法律「香港基本法」を1990年に制定した際、その23条で香港政府に対して、「反逆、国家分裂、反乱煽動、中央人民政府転覆、国家機密窃取等の行為を禁止する法律の制定」を求めました。これが「国家安全維持法」です。

そのため、香港ではこれまで何度か国家安全維持法を制定する動きがありましたが、香港人から言論の自由や集会の自由が奪われる恐れがあるということで反対活動が起こり、そのたびに法案が撤回されるなど、制定に至りませんでした。

しかし、習近平政権になってから、香港の自治権を脅かすような決定が次々となされるようになりました。2014年には、香港行政長官選挙での立候補に際して中国政府が介入できるような選挙制度を決定したことに対して、香港で大規模な反対デモが発生しました。民主派の学生たちが中心街の道路を封鎖、占拠したこのデモは、「雨傘革命」とも呼ばれました。

2019年には、香港で逮捕された容疑者を中国本土へ引き渡すことができるようにする「逃亡犯条例」改正案を香港政府が議会に提出したことに対し、200万人を超える抗議デモが発生したことは記憶に新しいところでしょう。結局、香港政府は改正案を撤回せざるをえませんでした。

こうした香港での反対デモによって香港支配が阻止されたことに業を煮やした習近平政権は、香港から自治権を奪い、中国共産党が香港の法制度を決定することとし、国家安全維持法の制定を強行したというわけです。国家安全維持法の成立を受けて、香港の民主活動家が民主派団体から脱退する動きが加速しています。中国当局による逮捕や中国本土への連行を恐れてのことでしょう。

また、アメリカは一国二制度を前提に香港に対して行っていた貿易や渡航に関する優遇措置を停止する方針を発表しました。2019年の数字では、アメリカと香港のあいだの貿易は、アメリカからの輸出が3兆円、香港からの輸出が4兆3000億円にものぼります。それらは香港を介して中国へ流れ込みます。

香港から中国への輸出は31兆5000億円、中国から香港への輸出は28兆6000億円です。また、香港を介しての中国への投資もさかんに行われています。香港から中国本土への直接投資は10兆4000億円、株式投資は5兆3000億円となっています。
香港国家安全法が施行 何が狙い、なぜ問題?

欧米の反発と制裁により、こうしたアジアの金融センターとしての機能が香港から失われていくことは確実です。習近平もそのことはわかったうえで、香港への統制力を強めているわけです。

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