コロナ禍で考える開発途上国の支援。渋沢栄一の言葉のヒントとは

 

SDG Impactの設置の背景には、SDGsを達成するための新たな資金となる財源としての「インパクト投資」に対する世間の関心が高まっているという現状があります。

インパクト投資とは、良き社会的インパクトと経済的リターンの両立です。10年ほど前から徐々に認知度が広まってきている投資手法ですが、社会と経済の両立という意味では、渋沢栄一の「論語と算盤」の現代版とも言えます。

ただ「インパクト投資」は魅力的な表現でありますが、人によって定義が若干異なっています。良き社会的インパクトがあるならば、リターンが市場期待リターンより低い、あるいはゼロでも良かろうと思う人もいれば、通常のグロース(成長)投資に社会的インパクトが「おまけ」として付いていれば良いと思う人もいます。

しかしながら、インパクト投資の本質とは、慈善・援助活動、あるいは「おまけ」ではなく、良き社会的インパクトを意図すると共に、その投資が持続的に続けられるための必要な市場期待リターンを同時に目指すことであると思います。

そして、「ウォッシング」(お化粧)ではない、リアルなインパクト投資の要となるのが社会的インパクトの測定です。

現在、世界では色々なプレイヤーたちが試行錯誤を繰り返しながら、この測定の基準作りに挑んでいます。一方、UNDPの本来の役目は新興国の経済開発であり、社会的インパクトの測定の事務能力や予算配分が潤沢である訳ではありません。

またインパクト測定について、OECD(経済協力開発機構)やPRI(責任投資原則)という政府系機関のみならず、様々な民間機関も取り組んでおり、航海図が複雑です。従って、UNDPがアレンジャーとして様々な取り組みを調整しながら「共通言語」を世の中へ提示することに大きな意味があると思います。

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しかし今回のSDG Impactの運営委員会への参加でちょっと気になったこともありました。

現在、多くの方々のご尽力により、日本では官民でSDGsへの認知度、関心、そして行動も高まっていることを肌で感じています。ただ残念ながら、SDGsの一丁目一番地では日本の存在感が薄く、SDGsを通じて日本が世界でもっとプレゼンスを高めることが急務であると感じ、委員会では「please come to Japan」と挙手し、日本での開催を提案しました。

ただ、その後、コロナ禍により世界がロックダウン状態となり、SDG Impactによる基準・認証づくりのプロセスに日本の企業や投資家の意見などをインプットする会合の日本開催は、残念ながら頓挫しました。しかしウェブ会議が当たり前となったご時世を受けてSDG Impact事務局にオンライン意見交換会を提案したところ、快く応じてくれました。

6月末に東京大学社会連携本部のご協力も得て開催に至ったところ、100名近くの参加者に恵まれました。【アーカイブ(英語)

これからの企業は、ESGに関する情報開示だけではなく、社会的インパクトの測定および目標設定も常識となる時代の潮流を感じています。

日本社会全体で認識が広がっているだけに、 SDGsのガラパゴス化は回避しなければならず、SDGアラインメントをもっと世界へ発信して、プレゼンスを高めるべきだと強く感じています。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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『論語と算盤』口は禍福の門なり
口舌の利用によって福は来るものではないか。
もともろ多弁は関心せぬが、無言もまた珍重すべきものではない。

日本では、「背中を見て育つ」など言葉で表現しなくても、行動さえしていれば評価してもらえるはずという暗黙の了解があると思います。「空気が読める」民族ですから。しかし、世界で正当に評価してもらうためには、行動はもちろんのこと、それをきちんと伝える意識を持つことも重要です。

『渋沢栄一 訓言集』実業と経済
およそ事業は、社会多数を益するものでなければならない。
その経営者一人がいかに大富豪になっても、
そのために社会の多数が、貧困に陥るようなことでは、
正常な事業とは言われぬ。
その人もまたついにその幸福を永続することができない。

SDGs投資とは、MEからWEへの投資だと思います。コロナ禍で我々が学んだことは、MEを守ることは大切。でもWEの存在がなければ、MEの存在が脅かされる。またWEが繁栄すれば、その恩恵をMEが被ることができる。MEからWEへの投資は、MEの否定ではありません。

謹白 渋澤 健

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渋澤 健(しぶさわ・けん)

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