そんな難しい判断をして、おまけにその責任は取らなきゃならない、その状態で右か左か早く決めろと追い詰められたら、腹を決めて何かしなきゃならない。そんなことを何度も繰り返していたら、なんとなく部長らしくなって来たわけです。
最初の3ヶ月くらいは、明らかに衣装(ポストのことね)の方が大きかったのに、その衣装を着続けていたら、急激に自分の身体が大きくなっていき、ふと気付いたら、自分の身体が衣装とピッタリのサイズになっていたわけです。
この感覚を、男子たるもの一度は経験する必要があります。
衣装にピッタリしてくる感覚が立ち上がった時、それはあなたが急激に成長している時なんです。ポストがあなたを育ててくれた、その結果、そのポストに過不足がない状態に、いつの間にかなっていた。いつしかそう振る舞うことが当たり前になっていた。ふと気がついたら、そこに座っていることに違和感がなく、ずいぶん昔からここに座っていたという気がしてくる。そんな人もたまにはいるんです。
これが抜擢というケースで最も上手く行ったケースです。後に自分が抜擢する立場になってこれを理解しました。最初は、「こいつ大丈夫かな」と思いつつ、不安を持ちながら見守るわけですが、ひと月経ち、ふた月経つと、段々とそれらしくなっていくんですよ。この変化を見るのは、抜擢者として最大の喜びで、一人の人間をガラッと変革させてしまったという感じがするんです。
もちろん、いつまでもポストの方が大きい人や、勘違いしてポストにふんぞり返るおバカな人の方が多いんですよ。だから誰でもポストに就ければ、同じ結果になるとは言えないわけで、そこがまた抜擢の難しいところなんです。
私の場合、たまたまそれなりに上手くフィットする状態になれたんですが、なぜそうなれたのかというと、そのポストが持つ責任の重さを自覚できた、そのポストにリスペクトの念を持てたからだと思います。
そのあたりのことを感覚として理解したい人は、
● 『責任 ラバウルの将軍今村均』角田房子 著/筑摩書房
を読んだら良いと思います。
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