もしも朝鮮半島で戦争が起きたら、今の日本には何ができるのか?

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「イージス・アショア」配備計画が撤回され、にわかに沸き起こる敵基地攻撃能力保有の議論。軍事アナリストの小川和久さんは、以前の記事で「敵基地攻撃能力保有議論が非現実的な理由」を解説しました。しかし、政府の研究会で、自身の考えに欠けていた視点に気付かされたと報告。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』で紹介し、日米同盟の枠組みのなかで日本が作戦参加する方法を構築することの重要性を指摘。「血を流さなければ」のような短絡的な主張ではない成熟した議論への期待を示しています。

敵基地攻撃論という試金石

先日、政府の研究会で政策研究大学院大学副学長の道下徳成さんが提出したペーパーに目がとまりました。道下さんとは同じ研究会で18年間、ご一緒しています。昨今の敵基地攻撃論について整理を求めるもので、同じ席に提出した私のペーパーと基本的に重なる内容でしたが、道下さんの提案の中で私の考えに欠けていた部分があったので、ご紹介しておきたいと思います。

それは、仮に朝鮮半島で戦争状態が起きたとき、日本が攻勢作戦に参加できなければ、それを理由に米国から「むしり取られるばかりの状態」が続く恐れがあり、先頭を切って攻撃に出ることはできないまでも、少なくとも米国、韓国の航空戦力の後に続いて作戦用航空機を投入できるようにしておかなければならないのではないか、というものです。そうした政治的配慮もまた必要ではないかと道下さんは言います。まったく同感です。

日米安保条約は極東の平和と安全を目的としており、朝鮮国連軍の主力となる米軍に根拠地を提供し、国連軍後方司令部を横田基地に置かせている日本は、朝鮮半島有事において当事者であることを忘れてはなりません。その立場から、一定の条件下で自衛隊を投入するロジックを描くこともできるでしょう。

ここではロジックの問題には触れませんが、私はストライク・パッケージと呼ばれる航空戦力(電子攻撃機、戦闘爆撃機、制空戦闘機、AWACS=空中警戒管制機、空中給油・輸送機など)について日本としての編成を示し、F-35、F-15、F-2の戦闘機部隊を少なくとも2つは投入できるようにしておくべきだと思います。先陣を切るために必要な電子攻撃機や作戦全体を統制するAWACSは米軍に任せ、戦闘機部隊を支える空中給油・輸送機によって朝鮮半島周辺で自衛隊機と米韓両軍を支える形です。

このとき同時に頭に浮かんだのは、日本の交渉能力の問題です。湾岸戦争当時の米国のベーカー国務長官の回顧録『シャトル外交』では、日本は最も多い130億ドル(1兆6500億円)を拠出したにもかかわらず、ほとんど言及されない扱いでした。そうした対日スルーに打ちのめされた日本側からは、「やはり血を流さなければ認めてもらえない」という短絡的な声が沸き起こりました。

しかし、日本と同じように兵力を出さず、しかも日本より少ない金額しか拠出しなかったドイツは、その交渉姿勢を高く評価され、ベーカーから激賞されているのです。これは、ドイツが自国の国益をとことん主張し、米国を納得させるだけの交渉能力を示した結果にほかなりません。

昨今の敵基地攻撃に関する議論は、湾岸戦争後の「血を流さなければ」という声と重なっている点で危うさを感じざるを得ません。それでも、日本人が当時よりはるかに賢くなっていることに期待するなら、敵基地攻撃論は「したたかに国益を追求できる日本」になるための試金石になるかもしれないと思ったりもするのです。(小川和久)

image by:viper-zero / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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