スラブが下部マントルへ崩落する理由と「相転移」
ここで重要になるのが、マントルの主な構成鉱物の「相転移」である。相転移とは鉱物の組成が変わらずに、温度・圧力の変化により物質の状態や構造が変化することだ。地球の内部は深くなるにつれて圧力が急激に増加するため、鉱物はその圧力を支えられる丈夫な結晶に構造を変化させる。
上部マントルと下部マントルの境い目は、マントルの主な構成鉱物である「かんらん石」の相が変化する「相境界」で、冷たいスラブが相境界にぶつかると、相境界が下に凹み、スラブが溜まる量が増えて相境界の浮力がスラブを支えきれなくなり、下部マントルへ向かって落下を始める。
しかし、相転移して高密度になったマントルの上では、相転移していないスラブは沈込めず、相転移したマントルの上に「翼スラブ」を形成する。図04の「Wing β」と「Wing γ」の両スラブを見ると、550kmの深さまでは沈み込まず、横へ広がって翼状に反り上がっている。新妻氏によると、スラブ先端がマントル相転移の深度に達していない場合には、スラブを翼状に押し上げるのだという。この「Wing β」と「Wing γ」の両スラブが下部マントルへ崩落することはないということだろう。
マリアナは沈没するかもしれない。新妻氏の衝撃「仮説」
だが、図04を見て気になるのは、下部マントルにまで沈み込んでいる小笠原の垂直スラブと、かつての日本海拡大と「日本沈没」の時に酷似しているマリアナの横臥スラブだ。
新妻氏は、上記のスラブの形状などから以下のような仮説を唱えている。
「1500万年前の日本海拡大は、横臥スラブの先端が下部マントルに崩落したことで起こったと考えています。今後、マリアナ海溝域の横臥スラブの先端が崩落すれば、マリアナは沈没するかもしれません」(新妻名誉教授)
これはあくまで新妻氏による仮説だが、今のところマリアナ海溝で横臥スラブの先端が崩落すれば沈没の可能性があると見ているようだ。万が一、この沈没が起きれば、すぐ北に位置する日本にも地震や津波などの大きな影響が出るに違いない。
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今後は、関東周辺の地震発生の「前兆」として、西之島の噴火活動および伊豆・小笠原・マリアナ海溝域周辺の深発地震、そして銚子沖の地震活動について、ますます注視していく必要があるだろう。日本の地殻変動はまだ始まったばかりだ。
取材協力:新妻信明氏(新妻地質学研究所)
image by: ETOPO1, Global Relief Model / public domain