まさか事前には知らなかっただろうが、野村氏の問題提起コメントは、渡りに船だったはず。菅官房長官は我が意を得たりの表情で言った。
「省庁の縦割りを打ち壊して一つの方向にもっていくことはきわめて大事です。一例ですが、コロナ対策のマスクは厚労省だけではだめ…製造ラインをつくる補助金を出すのに経産省、地方自治体との関係で総務省、大学病院は文科省…それに環境省も…マスクだけで5つの省庁が入っていたんです」
評判の悪いアベノマスクまで、縦割り行政打破の成果と言わんばかりのノリである。妙な“一例”はともかく、野村氏の助太刀のおかげで、ちゃっかり、ダム活用の話をアピールできたのは、菅氏も納得だろう。
菅氏がこれまで官房長官として評価されてきたとすれば、まずその第一は、安定感だ。キモは言質をとられないこと。記者会見においても、質問のポイントを巧みに外し、都合の悪いことは隠し通す。つねに淡々というより単調で、特定の話題以外には力がこもらない。最近あまり聞かれなくなった言葉だが、「三味線を弾く」のが得意技である。
今井補佐官と不仲で、このところ安倍首相にも冷たくあしらわれているという風評の絶えなかった菅官房長官だが、安倍首相とその側近たちが目の前でふんぞり返る時間も残り少なくなり、浮かぶ瀬が見えてきたところだろうか。
しかし、裏切り、寝返り、梯子外しは政界のツネである。“三味線”で記者会見は乗り切れても、党内世論を味方につけるのは容易ではない。
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