ジェンダー問題だけでなく、この国では新興のテック企業というのも、またテック関係のエンジニアというのも激しい差別に晒されています。賃金水準は安いですし、発注側が優位な地位を利用して不当な要求をしても反抗できない、そして業界全体が既成の財界から敵視されないか、気を使って動いている、そんな状況です。
ある渋谷系の大手企業の創業者は、「いつも堀江貴文氏が投獄されたという事実が念頭にある」つまり、この国の権力とか国家意志に逆らったらヒドい目に会わされる、そんな恐怖心に心のどこかが支配されていると語っていました。
考えてみればデジタル庁というのは、そうした国家意思の中にある守旧派と徹底的に戦わなくてはならない、それがタスクです。そう考えると、例えば企業を社会的に認知させるための保険として、多少高価でもプロ球団を買うとか、そこでオーナー会議の議長になってコミッショナーを通じて、国の中枢にコネをつけてもらうといった「実務をテキパキ」とやってしまった南場氏というのは、果たして適任なのかという疑問が湧いてきます。
ジェンダーということでも、テックの利用ということでも、この国は先進国中最低最悪であるわけです。ということは、それを与えられた「水はけの悪い土地」だというように、受け入れて自分が買った部分だけ実務的に対応して、「不器用」な努力で乗り越えるのではなく、そもそも全体の土地を改良する、つまりジェンダーの問題として、社会全体を変え、コンピュータ技術の利用ということでも、この国の仕事の進め方を変えなくてはならないのです。
どうせこの国は男性優位、この国の政財界は新技術なんて嫌っている、だから自分が変わればいいし、その自分の動き方は不器用に見えるかもしれないが、現実的にはそれで成功してきた…その種の人材は、ハッキリ言って守旧派を助けているだけです。そのようなアプローチでは、この老大国の中身の入れ替えなどということはできません。
但し、そうではない、もしもタスクとして官公庁のデジタル化、そして民間の事務仕事の徹底した省力化と生産性向上をやって、本当にGDPにプラスの貢献をする、そのための数値目標を設定して、その実現のために南場氏の才能を使うということでしたら、そして、南場氏も受け止めるだけでなく、変えるべきところは変える、そのために貴重な才能を惜しみなく使おうというのであれば、チャンスを与えるのも良いかもしれません。
ですが、また悪い癖が出て、どうせ相手は変わらない、だから自分側の努力で数値目標だけは達成するので、それで勘弁して下さい、不器用なので…などという姿勢で取り組むのであれば、その人事には反対です。
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