菅首相の“恨み”と6人任命拒否。日本学術会議への敵意の正体とは?

 

《参考1・声明》軍事的安全保障研究に関する声明 2017年3月24日 日本学術会議 第243回幹事会

日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。

 

科学者コミュニティが追求すべきは、何よりも学術の健全な発展であり、それを通じて社会からの負託に応えることである。学術研究がとりわけ政治権力によって制約されたり動員されたりすることがあるという歴史的な経験をふまえて、研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない。しかるに、軍事的安全保障研究では、研究の期間内及び期間後に、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって、政府による研究者の活動への介入が強まる懸念がある。

 

防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」(2015年度発足)では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い。学術の健全な発展という見地から、むしろ必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である。

 

研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる。大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる。

 

研究の適切性をめぐっては、学術的な蓄積にもとづいて、科学者コミュニティにおいて一定の共通認識が形成される必要があり、個々の科学者はもとより、各研究機関、各分野の学協会、そして科学者コミュニティが社会と共に真摯な議論を続けて行かなければならない。科学者を代表する機関としての日本学術会議は、そうした議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く。

 

(出典:日本学術会議『軍事的安全保障研究に関する声明』)

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《参考2・報告の「要旨」》報告 軍事的安全保障研究について 2017年4月13日

日本学術会議 安全保障と学術に関する検討委員会

 

1 作成の背景

安全保障と学術に関する検討委員会は、安全保障にかかわる事項と学術との関係について、今日の時点で日本学術会議が採るべき考え方を検討することを目的として、2016年5月20日日本学術会議第229回幹事会決定にもとづき設置された。本報告は本委員会にお ける検討、及び2017年2月4日開催の学術フォーラムの議論の成果をふまえてとりまとめたものである。

 

2 現状及び問題点

日本学術会議は1950年に「戦争を目的とする科学研究には絶対従わない決意の表明(声明)」を、また1967年には「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発出した。半世紀を経過し、近年、再び軍事と学術とが各方面で接近を見せている。その背景には、軍事的に利用される技術・知識と民生的に利用される技術・知識との間に明確な線引きを行うことが困難になりつつあるという認識がある。他方で、学術が軍事との関係を深めることで、学術の本質が損なわれかねないとの危惧も広く共有されている。また、防衛装備庁が大学等の研究者をも対象とした安全保障技術研究推進制度を2015年度に発足させ、これへの対応のあり方も検討を要するものとなっていた。

 

3 報告の内容

(1)科学者コミュニティの独立性
日本学術会議が1949年に創設され、1950年と1967年の二度にわたり声明を出した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。科学者コミュニティが追求すべきは、学術の健全な発展であり、これを通して社会からの負託に応えることであるが、学術の健全な発展への影響について慎重な検討を要するのは、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる分野である。この分野にかかわる研究を、本委員会では軍事的安全保障研究と呼ぶこととし、その拡大・浸透が学術の健全な発展に及ぼす影響を、安全保障と学術との関係について検討する際の焦点と考え、検討を進めた。

 

(2)学問の自由と軍事的安全保障研究
学術研究が、政治権力によって制約されたり政府に動員されたりすることがあるという歴史的な経験をふまえつつ、学術研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保される必要がある。軍事的安全保障研究の分野では、研究の期間内及び期間後に、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって、政府による研究者の活動への介入が大きくなる懸念がある。防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」は、研究委託の一種であり、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入の度合が大きい。

 

(3)民生的研究と軍事的安全保障研究
民生的研究と軍事的安全保障研究との区別は容易でない。基礎研究であれば一律に軍事的安全保障研究にあたらないわけではなく、軍事利用につなげることを目的とする基礎研究は軍事的安全保障研究の一環であると考えられる。また、軍事的安全保障にかかわる技術研究の内部で、自衛目的の技術と攻撃目的の技術とが区別でき、自衛目的の技術研究は認められるとの意見があるが、自衛目的の技術と攻撃目的の技術との区別は困難な場合が多い。科学者が、自らの研究成果がいかなる目的に使用されるかを全面的に管理することは難しい。研究の「出口」を管理しきれないからこそ、まずは「入口」において慎重な判断を行うことが求められる。

 

(4)研究の公開性
学術の健全な発展にとっては、科学者の研究成果が広く公開され、科学者コミュニティによって共有され、相互に参照されるようにすることが重要である。軍事的安全保障研究については、研究の過程でも研究後の成果に関しても、秘密性の保持が高度に要求されがちであり、自由な研究環境の維持について懸念がある。特に大学等における海外の研究者や留学生等との国際的な共同研究に支障が出ないか、自由で開かれた研究環境や教育環境が維持できるか、学生や若手研究者の進路が限定されないか等の懸念もある。

 

(5)科学者コミュニティの自己規律
いかなる研究が適切であるかについては、学術的な議論の蓄積にもとづいて、科学者コミュニティにおいて一定の共通認識が形成される必要がある。科学者コミュニティは、学術研究のあるべき姿について社会と共に真摯な検討を続け、議論を進めて行く必要がある。そうした議論の場を提供する上で、科学者を代表する機関としての日本学術会議の役割は大きい。

 

科学者の研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、場合によっては攻撃的な目的のためにも使用されうる。大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、自由な研究環境や教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究については、その適切性について、目的・方法・応用の妥当性の観点から、技術的・倫理的に審査する制度を設けることが望まれる。また、それぞれの分野の学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる。

 

(6}研究資金のあり方
学術の健全な発展のためには、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生的な研究資金を充実させて行くことが必要である。

 

(出典:日本学術会議『報告 軍事的安全保障研究について』)

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年10月5日号より一部抜粋)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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