金正恩の謝罪は「お米ください」のサイン。北の食糧危機は最終局面か?

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9月23日に明らかになった北朝鮮領海内での「韓国人銃殺」事件で、金正恩委員長からの「謝罪の通知文」が韓国側に届き、物議を醸しています。6月の南北連絡事務所爆破事件前後から「韓国無視」を続けた北朝鮮に何が起こったのでしょうか? メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんが、ヤクサクパルダ(小賢しい)金正恩の謝罪の真相を明かします。なお、通知文には「すみません」程度の軽い言葉しかなく、韓国国民の反応が文在寅大統領とは正反対である理由も記しています。

コロナ禍・水害・経済制裁の三重苦に加えて今回の蛮行、どう対処するか

北朝鮮を称して「ならず者国家」とは言い得て妙である。今回の韓国人男性射殺・焼死事件、これにいち早く金正恩朝鮮労働党委員長が反応して韓国側に「謝罪の通知文」を送ったが、この通知文の真贋が取りざたされている。また、この謝罪の通知文を受け取った韓国政府の反応は、多くの韓国民の感情とはまったく正反対の評価をするかのようなものであった。

事件の顛末については韓国側の説明と北朝鮮側の説明に異なる部分が多いが、韓国側の説明によると、事件は残酷極まりないものであった。北朝鮮領内の海域で漂流し疲労困憊している韓国海洋水産省の公務員の男性を北朝鮮海軍の警備艇が船に助け上げることもなく約6時間にわたり海中に留め置いて銃殺し、その後、海上に浮いた遺体に防毒マスク姿の北朝鮮兵士らが、海に油をまいて火を放ったというものである。

この北朝鮮兵士による蛮行に慌てた金正恩が事件発生2日後に、朝鮮労働党統一戦線部の名義で、「我々の海域で思いもよらない恥ずべきことが起きた」、「悪性ウイルスの病魔の脅威に苦しむ南の同胞」の韓国側に「大きな失望感を与えた」と謝罪の意思を伝えるように指示したという。

朝鮮語に「ヤクサクパルダ」という言葉がある。意味は「すばしこい、小賢しい、小利口、如才ない」であるが、いい意味で使われることはない。この金正恩の素早い対応について、北朝鮮問題専門家たちは、「韓国国民の対北朝鮮感情を和らげる」とか「国際社会からの北朝鮮=残忍な国家というイメージを払拭する必要があった」などと分析しているが、私はそれ以上に金正恩のメンツを保つことと、もっとも重要なことは、「韓国側からの経済援助、つまり『食糧支援』を求めなければならない状況下にある」ので、いち早く「謝罪」なる通知文を送ったというのが真相だろう。

ところで、金正恩は通知文で「恥ずべきことが起きた」(決して射殺などとは表現しない)と言っているが、叔父の張成沢を無残な処刑に処した張本人の言葉とは思えない。国民に「偉大な最高指導者」と言わせているこの無慈悲で残酷な「最高指導者」が本当に謝罪したのだろうか。

通知文では「金正恩が謝罪した」と言うことになっているが、謝罪とした語句は「ミアナムニダ(=未安です)」、つまり日本語では「すみません、すみません」程度の軽い謝罪言葉で、これで本当に心底から謝罪しているというのか。

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