為政者の資質なし。学術会議問題が国内外に示した菅首相の人格

 

欧米先進国で、アカデミー会員の顔ぶれが政治に左右されるということは、まずありえない。日本学術会議の2015年版資料を参考に、米英仏独のアカデミーについて、政府との関係がどのようになっているのか、概略を確認しておこう。

全米科学アカデミー(会員約2,200人)。独立した非営利組織で、2億ドルといわれる年間運営経費の80%が連邦政府との契約で賄われ、その他、民間からの資金提供も受ける。

英国王立協会(1,430人)。独立した慈善団体で、収入の70%近くが議会からの助成金。その他は出版物収入や寄付など。

フランス科学アカデミー(267人)。独立機関だが、運営費の60%は政府が負担、残りは寄付などで賄う。

ドイツ科学アカデミーレオポルディーナ(1,500人)。900万ユーロとされる運営費のすべてが公的資金から拠出されている。しかし、独立した非営利組織であり、政府の干渉を全く受けない。

すべて公費で運営されているという点ではドイツがいちばん日本に近いわけだが、いずれの国もかなりの割合で公的資金が投入されているのは確かである。それでも、独立性、中立性をしっかり保持しているのだ。

象牙の塔にこもって現実を無視する学者も中にはいるかもしれない。最高の知性も、時の政治権力から見れば邪魔者に過ぎないかもしれない。だからといって、学術の最高機関である日本学術会議の自立性を奪ったら、それこそ国家の総合的、俯瞰的な視野は狭窄の一途をたどるだろう

かつて吉田茂元首相は、講和のあり方をめぐり南原繁・東大総長を「曲学阿世の徒」と罵ったが、本来、「曲学阿世」は「学問上の真理をまげて、世間や権力者の気に入るような言動をすること」を意味する。権力者に盾突いた南原学長はむしろ「曲学阿世」の対極にあったといえるのではないか。

言うまでもなく、為政者には、種々の異論にも耳を傾け、俯瞰、総合して政策を判断する器量が求められる。

菅首相はその資質の持ち主でないことを内外に示したのが、今回の任命拒否である。

image by: 首相官邸

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