為政者の資質なし。学術会議問題が国内外に示した菅首相の人格

arata20201022
 

10月1日の発覚依頼、各所で喧々諤々の議論が続く、菅首相による日本学術会議の会員候補任命拒否問題。運営費に税金が投入されている以上、公権力の人事介入は当然とする声も聞かれますが、はたしてそれは正鵠を射た指摘なのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、欧米先進国では、運営費の一部またはすべてが公的資金で賄われているアカデミーであろうとも、その顔ぶれが政治に左右されることがない事実を提示。さらに今回の拒否問題が、菅首相に為政者の資質がないことを内外に示したという厳しい見方を示しています。

心得違いの菅首相、就任早々の学術会議会長、あの会談は何だったのか

ニュートリノ研究ひとすじのノーベル賞物理学賞受賞者、梶田隆章氏が日本学術会議の会長に就任したのはことし10月1日、つい先日のことである。その最初の仕事は学究肌の梶田会長にとって過酷なものとなった。

いかなる巡りあわせか、会長交代期に勃発した新会員候補6人の任命拒否問題。10月1日の総会で新会長が取りまとめ、決議したのは菅首相への要望書だった。推薦した会員候補が任命されない理由の説明と、速やかな任命を求める内容だ。

学術会議の動きに、菅首相は冷淡なそぶりを見せた。「総理自身が梶田会長と会って直接説明する考えは?」と記者に問われたさいの発言。

「梶田会長が会いたいということであれば、お会いをさせていただく用意は持っております」

こちらから説明する必要はない、会いに来たいというのなら拒みはしない。あくまで上から目線。ノーベル賞学者への敬意などみじんも感じられない。

それでも梶田会長には、総会で決まった要望を伝える責任がある。官邸に首相との面会を求めると、秘書官から返ってきた答えは「15分くらいなら時間が取れます」。

首相官邸に乗り込み、拒否の理由を明らかにするよう迫る、という期待が梶田会長の一身にのしかかっていた。15分で何が話せるだろう。あいさつ程度の時間ではないか。

この時点で、梶田会長は、官邸のペースに巻き込まれていた。10月16日、梶田会長は菅首相に会い、決議文(要望書)を手渡したが、そこで二人が交わした話の内容は意外なものだった。

会談後、記者団の取材に応じた梶田会長は「首相から任命拒否について説明はあったか」との問いに、こう答えたのだ。

「今日は特に回答を求める趣旨ではないので、明確なことはない」

「(決議文を)渡したが、それよりも未来志向で、学術会議が学術に基づいて社会や国にどう貢献していくかについて話した」

回答を求める趣旨ではない。なんということか。事実、菅首相は記者団に「梶田会長は就任挨拶のためにいらっしゃいました」と言い、食い違いはない。

しかし、形は挨拶であっても、要望書を手渡したのは確かだ。また、それが注目のマトになっているのも承知しているはずである。

ところが、要望書を受け取った菅首相は、その文面を一顧だにせず、全く違う話をした。「学術会議が国の予算を投ずる機関として国民に理解をされる存在であるべきだ」と。

常識がある人物なら、その場で答えない場合、しかと受け取りました、後日回答いたします、くらいのことは言うのが礼儀というものであろう。

本旨については無視し、菅流“忍法すり替えの術”でやり過ごそうとする首相の腹のうちは明らかだ。学術会議の会員にしてみれば、さぞかし不完全燃焼の会談だったにちがいない。

学術会議の前会長、山極寿一氏(京大前総長)の複雑な心境が思いやられる。

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