オバマの鳩山酷評は本当に「誤訳」か?試される日本人の政治リテラシー

 

オバマ回顧録とバイデン人事から今後の日米関係を占う

肝心の回顧録の内容ですが、シカゴ時代や上院議員時代から書き起こし、大統領職にあった8年間に、自分がどのように国際情勢を認識して、合衆国大統領としてどのように判断を下して続けたかが克明に記録されています。勿論、自分の判断が正しかったという観点からはブレていませんが、とにかく情報量が半端ではないので、歴史的な記録として貴重であると思います。

リーマンショック後の金融危機からの脱出、ノーベル平和賞とアフガン戦争の継続、アラブの春とシリア危機、リビア革命とベンガジ事件、更にはビンラディン殺害作戦に至るまで、書き方としては「アメリカ民主党の史観」で一貫していますが、とにかく克明な筆致で後世の批判に耐えうるよう書かれているわけです。

では、そのオバマ氏の副大統領を務めたバイデン氏による政権は、どんな内政と外交を繰り広げるのでしょう?本書から読み取れるのは、やはり同じ民主党政権としてアメリカは国際協調路線に戻るということです。では、バイデンのアメリカは、オバマの8年間へと時間を巻き戻した形になるのかというと、必ずしもそうとも言えないという点も、本書からは見えてきます。

具体的には対中国外交です。アジア外交については、例えばオバマは2009年11月に日本に来て、その後、シンガポールでのAPECに参加後に訪中、胡錦濤との首脳会談を行って、最後に韓国に寄って帰っています。

この訪日の際には11月14日にサントリーホールで行った演説が話題になりました。考えてみると、あれから11年の歳月が流れているのですから、時間の流れの速さを感じます。

それはともかく、この「サントリーホール演説」について振り返ってみますと、とにかくオバマは、アジアにおける「バランスの維持」に腐心する一方で、中国との共存共栄ということを大きな柱にしていました。ですから、演説の中でも再三にわたって「中国とはゼロサムゲームではない」とか「中国を封じ込める意図はない」ということを強調していました。

ニュアンスが変わっていくのは、翌年、2010年7月に、ベトナムのハノイで行われたは、ASEANの地域フォーラムにおいて、ヒラリー・クリントン国務長官が行った演説です。ここでヒラリー・クリントンは南シナ海での米国政府の政策の基礎となる原則として「海洋航行の自由(上空通過の自由を含む)」と宣言したのでした。

この際にヒラリーは、同じく南シナ海問題について「通商への障害は回避する」とか、「紛争は平和的に解決」するのであって「強圧的行為は回避する」というのも原則に入れています。ですから、後の「ペンスドクトリン」のように、安全保障と通商問題をゴチャゴチャにして落とし所を消してしまうようなことはしていません。

ですが、胡錦濤は成り行き上、この「航行の自由発言」には反発し、以降のアメリカは中国を対象とした「リバランス戦略」へと方針転換をしていくことになります。その後、中国はより一層の経済成長を実現する一方で、習近平政権はゾンビ企業の整理や、腐敗高官の摘発など多くの課題を抱えることとなり、結果的に集権的になって行きました。また豊かな中国として求心力を維持するために、海洋戦略ではよりアグレッシブな態度を取り続けています。

そんな中で、2017年以降のトランプ政権は「世論の感情論に対中脅威論を点火」しつつ、「激しい条件を突きつけて通商戦争を展開」ということになりました。

さて、バイデン次期政権ですが、このような過去12年にわたる経緯の中で、基本的には「トランプがブッ壊したものは再建する」というのが内政外交を貫く基本方針になります。ですが、アジア外交、とりわけ対中国外交ということになると、単に「トランプがこの4年間にやったことの裏返し」では済まない問題があるわけです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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