顔に泥を塗られた過去。バイデン大統領が韓国の文政権を許さぬ理由

 

トランプでさえ選ばなかった北朝鮮への攻撃はあるか

そのような中、東南アジア諸国はどうでしょうか。バイデン氏の新大統領就任を必ずしも心から祝っているかどうかは分かりません。

それは、トランプ大統領の4年の間に、アジア諸国でも強権的な政権が伸長し、コロナを理由とした国民の権利の制限を実施するという策に出ている中、人権問題や民主主義の価値を重んじるバイデン氏のアメリカが、その原理原則を押し出してくるようだと、非常に息苦しさを感じる対米外交になるかもしれません。特に人権や民主主義の尊重を、アメリカからの支援、そして中国からの脅威に対するアメリカの後ろ盾の条件に据えるようなら、確実にアメリカとは距離を取り、代わりに、表向きは内政干渉せずに経済的な恩恵をもたらしてくれる中国への傾倒が一気に進みます。中国にとってのチャンスは、その場合、最近インド抜きで合意したばかりのRCEPでしょうし、最近、習近平国家主席がout of blueで表明したTPP11への参加も、アメリカがTPPを軽視するのであれば、もしかしたら中国に掻っ攫われるかもしれません。その際、TPP11の核である日本が、RCEPにも絡む対中関係に鑑みて、どこまで抵抗できるかは未知数です。

すでにミャンマーやラオス、カンボジアは、中国からの圧倒的な経済支援と協力を受けて、中国の“衛星国”化していると言えますし、今週については、パキスタン政府が公式に、一帯一路関係のプロジェクトを監督する権限をパキスタン軍に与えることで、中国勢力圏への傾倒を示しました。これは、隣国であるインドと中国のライバル関係という“火に油を注ぐ”効果を生んでしまいます。そしてそれは、日本や豪州が推し進め、トランプ政権も、そしてバイデン新政権も支持する「自由で開かれた(繁栄と協調の)インド太平洋」計画にとっての脅威となるかもしれません。あまり報じられることではありませんが、要注意です。

中国対応とも絡むイシューとして新政権を悩ませるのが【朝鮮半島問題】です。まず北朝鮮については、大統領選中、バイデン氏は「トランプ大統領は金正恩氏に遜(へりくだ)ったが、何も成し遂げなかった」とこき下ろしましたが、8年間のオバマ政権が行った対北朝鮮での【戦略的無視】の副作用が、北朝鮮の核開発の著しい進展だったことには目をつぶっているように感じます。

しかし、実際には、バイデン氏自身もオバマ政権の北朝鮮対策は失敗であったことを認識しており、その失敗を取り戻そうとしているらしいと聞きます。

トランプ大統領が使い分けた【戦争の可能性というハードと、対話というソフト】という対策は、バイデン政権では、非難した手前使えず、バイデン政権での対話カードは存在しないことを意味するとも読み解けます。だとしたら、オバマ政権で失敗した戦略的無視を再度行うのか、それとも、トランプ大統領で“さえ”選ばなかった北朝鮮への攻撃を行うのかという選択になるのではないかと考えます。

そのカギを握りそうなのが、お隣の韓国です。韓国の文政権は、バイデン氏に秋波を送って、【アメリカから見捨てられた事態】の打開に乗り出そうとしていますが、新たに国務長官に指名されたブリンケン氏とその周辺情報を見ると、対韓政策は恐らくハードライナーの継続でしょう。それは、副大統領時代に苦心して日韓の間の調停を行った成果を、文政権が台無しにし、バイデン氏の顔に泥を塗ったとの認識が強く、特に面子を重んじるバイデン氏にとって文政権は許せない存在です。また現政権の支持率が下がっているとはいえ、誰が次の大統領になっても韓国の姿勢が変わるとは見ておらず、厳しい対応を取るとの見方が強いです。

形式としては、日米韓の同盟への復帰を迫るプレッシャーをかけ、曖昧な態度を取るようであれば、トランプ政権以上に明確に切り捨てることも厭わず、そこでバイデン政権ははっきりと韓国は【レッドチーム】との理解に傾くことになります。今のところ、就任前と言うこともありますが、日韓双方を持ち上げつつ、その顔色をじっくりと窺っているようですが、対韓国ではバイデンスマイルで近寄りつつ、心の中はハードラインというのが実際のところかと思われます。

結果として、アジアでは硬軟使い分けて対中圧力のための同盟強化(韓国抜き)が進められることになります。

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