10兆円政府ファンド創設へ。渋沢栄一の子孫は国の本気度をどう見る?

 

産学に新しい資金と知の流れを作る

米国の「5%ペイアウト・ルール」の起源は大学基金の資産運用の改革です。ハーバード大学基金やエール大学基金が日本では注目を浴びますが、大元はCommonfundという、小大学基金を共同運用する非営利の資産運用会社です。

1960年代後半に米フォード財団が助成した研究で、当時の大学基金の資産運用は債券利回りの収入だけに頼ると教育・研究費の財源が減少する傾向が問題視され、株式を含む長期投資をトータル・リターン(元本益および金利・配当の再投資)の方針を推進するために設立された共同運用会社です。

予算は年度ごとに捻出して使い切るという「フロー型」が慣習となっているマインドセットでは、せっかく確保してある財源の5%しか使えないことに不満があるかもしれません。

ただ、今回の大学研究支援ファンド構想で大切なことは、長期的な視野で、資金を使い切るのではなく、次世代にも「ストック」として積み立てる、また、資産運用の成果によって拡大できる財源を創造しているという視点をしっかりと定めることが不可欠です。

コロナ禍を経て新政権が発足して、2025年の大阪関西万博に向けて、この官学基金の構想が立ち上がったことは重要で、このタイミングを逃してはなりません。

基金の資産運用は温暖化ガス実質ゼロ化等を推進する投資やESGを重視する世界の上場株式投資へ注力すべきでしょう。サステナブルな世の中を促す成長性ある資金を世界へ供給することで、新しい時代における日本のプレゼンスを高める「Made With Japan」にもつながります。

持続可能な経済社会には様々な新しいテクノロジーの開発および事業化が不可欠になります。そのような新しいイノベーションを促す世界のベンチャーキャピタル投資にも積極的に取り組むべきでしょう。

金銭的な運用収益の還元だけでなく、新しいベンチャーから生じる知的・人的資本のネットワークも日本の大学へとループバックするという協働体制を構築することも大事です。

そして、良き社会的インパクトを意図した事業に持続性があるように経済的リターンも求めるというインパクト投資にも投資を振り向け、世界における日本のプレゼンスを高めるべきです。

新しい資金と知の循環世界へ。その新しい流れをつくる人材も育む。産官学ファンドであるからこそ形成できるエコシステムであります。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
『論語と算盤』経営塾オンライン

『論語と算盤』大正維新の覚悟

ただかかる秩序立ち、
一般に教育が普及した時代ゆえ、
普通より少しぐらい進歩し、
わずかに卓越した意気込をもって事に当たっては、
とても大勢を動かすことはできない。

コロナ禍を経て万博開催に向かう日本の時代の節目のタイミングです。産学に新しい資金と知の流れを一気につくる意気込みで日本のプレゼンスを世界で高めることができる官製ファンドとして、しっかりと制度設計していただきたいと切に願っています。

今だからこそ、壮大な航海図を描き、志が高い船員を結集し、大きな帆を揚げて、多くの前例なき未開拓の領域で実績をつくるべきです。

『渋沢栄一 訓言集』学問と教育

新しき時代には
新しき人物を養成して
新しき事物を処理せぬばならない。

今回の大学研究支援ファンドを日本の従来の機関投資家や年金基金の経験値やマインドセットで資産運用することに留まれば上手くいかないと思います。今は新しい時代ですから、新しい人材の養成によって、新しい成功体験をつくらなければなりません。

謹白

image by: 公益財団法人渋沢栄一記念財団 - Home | Facebook

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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