10兆円政府ファンド創設へ。渋沢栄一の子孫は国の本気度をどう見る?

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大学の研究や若手の育成を支援する最大10兆円規模のファンドを来年度にも創設することを先日、政府が発表しました。将来的に年数千億円の運用益を目指し、研究費や若手の待遇改善に充てる方針だといいますが、このファンドに注目しているのは、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さん。渋澤さんは今回のシステム構築に、ある米国のルールがとても参考になると解説しています。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

10兆円ファンドは日本の研究支援にどう作用するのか

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

大学の研究支援ファンドを創設することを政府が検討しているという報道がありました。ファンドの運用益が研究基盤整備の財源になる構想ですが、10兆円のファンド規模を3年目途で目指すという気合いが入っている金額に驚きました。

2020年度の国の一般会計の文教科学歳出の5兆5千億円と比べて約二倍の金額なので、当然一年で使い切る支出のような年度予算ではなく、継続的に「積んでおく」性質の資金と考えているのでしょう。

大規模ファンドの適切な運営など色々な課題を整理する必要があり、そもそも肝心な大学側からは様々な制約がある資金財源になるのではという警戒心もあります。ただ、この構想は、これからの日本にとって極めて重要な基盤を構築できる可能性があると思っているので、きちんと制度設計されることに期待しています。

民間が既に展開している領域に官製ファンドの存在意義はありません。一方、民間だけではできていない領域に新しい動きを促進することが、官製ファンドの果たすべき役割だと思います。

今回の大学研究支援ファンドに期待している、その役割とは「新しい資金と知の流れをつくる担い手を育成するエコシステム」です。そして、そのエコシステム構築に参考になるのが、米国の「5%ペイアウト・ルール」です。

毎年、基金の5%が寄付や助成金で社会に還元されれば、米税制法上「非営利」として認められます。従って、基金の95%を長期的に年率5.3%で運用できれば、その基金は持続的に“維持”できることになります。また、長期的に年率5.3%以上の運用利回りが実現できれば、その基金の規模はむしろ“拡大”します。

複利効果(雪だるま式)が生じる長期投資もカギです。基金が拡大すれば、一定割合で還元される毎年の「ペイアウト」の総額も増えます。

ただ、長期的でも5.3%以上の運用利回りを確保するためには債券投資だけでは無理です。日本では「元本保証」という呪縛があるために、近年の運用益の実績は微々たるものです。

国債の利回りはほぼゼロなので、高利回りという人参をぶら下げている仕組債などに手を出して、表面上では見えないリスクを抱えている大学や公益法人が多いです。

米国の「5%ペイアウト」モデルでは基金の長期的な運用収益を求めるために成長性ある株式投資にも配分しています。また、長期的にコミットできる性質の基金なので流動性リスクへの許容もあり、イノベーションをもたらすベンチャーキャピタルファンドや業界再編を促すバイアウトファンドにも積極的に投資をしています。

社会的活動に不可欠な財源を創出すると同時に、産業成長を促す良質なリスク・キャピタルも資本市場に供給する。これが、米国の「5%ペイアウト・ルール」であり、日本社会でもこの考えを応用すべきであると長年、提唱してきました。

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