仁義なき自民内部抗争が勃発か。菅首相が自ら招いた「自滅の刃」

 

安倍氏と麻生太郎氏の盟友関係は不変だろう。さきの総裁選では、安倍氏の持病悪化による緊急避難を優先するあまり、二階幹事長と菅首相の計略にはまったかたちだが、冷静さをとり戻した今なら、また違った見方、考え方があるだろう。

安倍氏が、かねて禅譲を噂されていた岸田文雄氏を後継としなかった背景には、候補者の一人、石破茂氏の存在があった。石破氏を封じ込める作戦で安倍、麻生、二階の各氏が共闘するなか、党を掌握する二階氏の推す菅氏が浮上し、岸田氏は後退した。

だが、菅政権誕生から3か月を経た今、石破派は解体の危機に瀕し、安倍・麻生連合にとって、恐れるに足らぬ存在になった。そこであらためて党内を見渡すと、むしろ邪魔なのは二階幹事長であると彼らの目には映っているのではないか。

菅首相を担いで勢力を拡大し続けている二階幹事長の、大親分気取りの傲慢なふるまいが気に障らないはずはない。菅首相とともに長期政権を思い描き、幹事長ポストにしがみつきたい魂胆は見え見えだ。

安倍氏の復権を望む声が細田派、麻生派のなかから湧き上がってきたのは、強力な後継人材が見当たらないせいでもあるが、「桜を見る会」疑惑の再燃で、その空気は一気に冷めてしまった。二度も持病悪化で政権を放り出したばかりでなく、国会で虚偽答弁し、議員辞職してもおかしくない人物を、いかに自民党とはいえ、三たび、総理総裁にするわけにはいかぬだろう。

菅首相、二階幹事長は表向き、前首相に敬意を払うように見せかけて、裏で、蹴落としにかかるはずだ。そうなると、安倍・麻生連合は菅降ろしを画策し、安倍氏は立候補をきっぱりあきらめて、総裁選には別の候補者を擁立するほかない。だとしたら、誰だろうか。

麻生派の河野太郎氏。英語が堪能で改革志向も強く一定の国民的人気はある。が、安倍氏や麻生氏が背後で糸を引くには、いささかやりにくい。なにより、河野氏が神奈川県連つながりで菅首相に可愛がられている面が麻生氏には気に入らない。

小泉進次郎氏。この線もありえない。やはり菅首相と親しい。原発ゼロを唱える父、純一郎氏の存在も気にかかる。

どうみても、岸田氏しかいないのではないか。岸田氏自身、その気になっている。

自民党の岸田文雄前政調会長率いる岸田派(宏池会、47人)が、近く古賀誠名誉会長の名前を同派の名簿から外すことが9日、分かった。

(「岸田派が古賀氏を名簿から削除へ 岸田氏「自立」アピール」12月10日産経新聞ニュース)

9月の総裁選後に古賀氏のほうから申し出があったということだが、そこには若干の説明が必要だ。

保守本流といわれ、4人の総理大臣を輩出した「宏池会」は2000年11月のいわゆる「加藤の乱」をきっかけに谷垣禎一氏らのグループと、古賀誠氏らのグループに分裂した。その後、2008年に谷垣派と古賀派は合流し「中宏池会」が誕生したが、2012年の総裁選で、古賀氏が谷垣再選を支持しなかったため、谷垣派は再び、宏池会を離脱した。

この間、岸田氏は古賀氏と行動をともにし、2012年10月、古賀氏から宏池会の会長を引き継いだ。古賀氏は名誉会長となり、名門派閥の領袖となった岸田氏は、一躍、将来の総裁候補の一人と目された。

岸田氏は古賀氏を政治の師と仰いできたが、今年9月の総裁選出馬にあたり、支援を求めるために訪ねた麻生副総理から「古賀とメシを食ったその足で俺のところに来るなんて、どういうことなんだ」と怒鳴られた。自民党福岡県連内の勢力をめぐって絶えず争ってきた古賀氏との縁切りを岸田氏に求めたのだ。

むろん、政治の師と仰ぐ古賀氏にそんなマネができるはずはない。岸田氏は禅譲の期待を抱き続けた安倍前首相に見限られたばかりか、宏池会に源流がある麻生派の支援も受けられず、菅氏の前に屈した。

これを見て岸田派の将来を案じた古賀氏は、自ら身を引くことで、岸田氏が安倍・麻生連合の支援を得られる条件を整えたわけである。岸田氏に運がめぐってきつつあるように思える。

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