(2)私立大学T大学のケース(東京地判 平15・7・15)
T大学の助教授であったCは、過去4度にわたって主任教授選考に応募したが、いずれも最終選考に残ることができず、Cの1年後輩であった教授Dが主任教授に就任した。Dは主任教授就任直後の職員会議において「スタッフの大改造を考えており、定年まで留まる必要はないから、自覚のある者は身の振り方を考えるべき」という趣旨の書面を配布。Cはこの文書の対象は自分のことだと認識した。
その後もDは忘年会の席上で「スタッフの中にお荷物的存在の者がいる」「死に体で残り生き恥をさらすより英断を願う」という内容の書面を配布するとともに、同様の内容のスピーチもおこなった。これについてはCのみならず、臨席した学長や他の教授も「対象者はCである」と察し、学長は後日、Dに対して注意をおこなった。
Cはその後「職場ハラスメント」を退職理由として自主退職したが、「名誉を毀損する退職強要があり、労働契約上の債務不履行(職場環境整備義務違反)または不法行為に当たる」として、退職強要により受給できなかった企業年金や退職金、慰謝料などを求める裁判を提起した。
結果、裁判では「衆人環視の下でことさらに侮辱的な表現を用いて名誉を毀損する態様の行為は許容される限界を逸脱したもの」であり、「精神的苦痛を与えるだけでなく評価を下げうるもので多大な損害を与え得る違法性の高い行為である」として、不法行為による損害賠償義務が認められ、Dと大学に対して合計450万円を支払わせる判決を出した。
これらの事例のように、原則として
- 執拗で、繰り返し行われる半強制的な退職の勧めは違法
- 退職「勧奨」の域を超える退職「強要」(ことさらに侮蔑的な表現を用いる、懲戒処分をちらつかせる、など)も違法
- 退職の勧めを拒否した者に対する不利益な措置(優遇措置の不提供、配置転換、懲戒処分、不昇給)は違法
となるので、実施の際には充分な留意が必要である。「原則として」と付記したのは、対象となる労働者や使用者側の事情によっては、不利益な措置が違法とならない場合があるためだが、あくまで程度の問題だ。必要以上に強要する形とならないようにしなければならない。
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