ダメ社員をクビにできるはずが違法に。「退職勧奨」の思わぬ落とし穴

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長引くコロナ禍により、社員に「退職」を求める企業が増えてきました。メルマガ『ブラック企業アナリスト 新田 龍のブラック事件簿』では、過去数度にわたって著者の新田さん(働き方改革コンサルタント)が、合法的な「退職勧奨」について解説してきましたが、今回は逆に、違法とされた失敗事例をご紹介しましょう。人員整理にあたって、経営者や人事担当者が注意すべき点、そして、言い渡される側の社員や職員が拒否する際のポイントとは?

準備が十分ではない「退職勧奨」は失敗する

トラブルになりにくいクビ切りの手段として、過去4回にわたって「退職勧奨」について解説してきた。

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退職勧奨とは文字通り、従業員を退職に向けて説得し、相手の同意を得て退職させることである。解雇と比べると従業員の同意を得ている点で問題化しにくく、企業としてのリスクも低いというメリットがある。また、問題行動を繰り返す迷惑な社員を排除する手法としても用いることができるのだ。

前回は実際の退職勧奨面談の進めかたを説明したが、面談にあたってもっとも重要なのは、そこまでに至る事前準備だ。事実、充分な準備をおこなわず、拙速な退職勧奨によってトラブルに発展した事例は数多い。たとえ相手が問題社員であっても、必要な手順を踏まず、然るべきサポートを放棄して退職勧奨をやってしまうと違法になってしまうのだ。他にも事例をご覧頂くとともに、注意点を確認していこう。

(1)市立高等学校Y市のケース(最一小判 昭55・7・10)

Y市立高等学校の教諭Bは、「退職勧奨には応じない」と一貫して表明していたにもかかわらず、Y市職員から執拗に退職を勧奨された。BはY市と教育長・同次長に、「違法な退職勧奨により被った精神的な損害」として各50万円を賠償するよう請求した。地裁、高裁ともにBの請求を認容したが、Y市側は上告。裁判は最高裁までもつれ込んだが、最高裁は上告を棄却し、Y市に損害賠償を命じた。

裁判においては、「退職勧奨は自発的に退職するよう説得する行為であって、勧奨される者は自由にその意思を決定しうる」「勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害する勧奨行為は、違法な権利侵害として不法行為を構成する場合がある」としたうえで、本件の退職勧奨は多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、許容される限界を越えている。また従来と異なり年度を超えて勧奨がおこなわれ、「退職するまで続ける」と述べて、Bに「際限なく勧奨が続くのではないか」との心理的圧迫を加えたものであって許されない、と判断された。

退職勧奨自体は合法であるが、本ケースのように繰り返し執拗になされ、半ば退職を強要するようなやり方は違法となり、実行者は損害賠償責任を負うことになるので留意が必要である。

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