呪われた政権。ボロ神輿で担がれた菅首相が自民にポイ捨てされる日

 

森辞職で東京五輪にいよいよ暗雲

菅の長男=正剛の問題は相当酷い。大学時代からやっていたバンドを辞めてブラブラしていた彼を、2006年に第1次安倍政権で総務相になった菅が総務大臣秘書官に雇い、同政権が1年で終わると、総務省の所轄下にあるテレビ会社「東北新社」に就職させたというのですが、これは露骨極まりない公私混同による身内への利益誘導でしょう。バンドマン崩れのしょうもない息子を自分が最高責任者を務める役所に国費で雇わせるという感覚が、まるで理解不能。ブラブラしている息子に困り、知り合いの工務店に大工見習いで置いてもらうよう頼んだというのなら「苦労人」の菅らしい、ほほえましいエピソードになるのですが…。

しかも、東北新社の幹部社員になった長男は、同社に対する監督権限を持つ総務官僚たちを違法接待する役目を担当していた。それは東北新社としては非常にメリットの大きい役所とのパイプ役であったはずで、その証拠に同社は菅に対して14年~18年だけでも250万円の政治献金をしています。笑ってしまうほどいじましい話で、普通の民主国家ならこれだけで首相辞任、議員辞職だと思います。

そこへもってきて森会長の失態ですから、満身創痍でもまだ顔だけは無傷で残っていたのに、そこも泣きっ面に蜂、という有様です。

森喜朗とは私も長いお付き合いで、1980年代中頃の中曽根政権の時代に、ナベツネ(読売)、シマゲジ(NHK)と並ぶ「政治記者3悪人」のもう1人であった故・三浦甲子二=テレビ朝日専務から「次は竹下時代だが、その先の有望株を集めて勉強会を作りたい」というご下問があり、藤波孝生、森喜朗、羽田孜、加藤紘一の4人を官僚・学者・記者・文化人などで囲む「青の会」という集まりを組織しました。田原総一朗さんが座長格で私が事務方。まだ東大にいた舛添要一、作曲家の三枝成彰、朝日の船橋洋一、毎日の嶌信彦などもいました。4人の政治家の中では藤波が年長で、他の3人からも派閥を超えた信望を集めていたので、藤波政権を作ることが暗黙の合意となっていました。

森は座談の名手で、芸者も侍るような宴会でその場を盛り上げるということに関しては、この人の右に出る者はおらず、その場でも常にそうでした。ところがそれでまずいのは、御座敷の宴会以外の場でも同じような軽い調子で余計なことをしゃべってしまう。それがこれまでの数々の「失言」事件を生んできたのだと思います。

奇しくも、ちょうど20年前の2月10日に水産練習船「えひめまる」がハワイ沖で衝突・沈没、9人が亡くなる事故が起きました。当時の森首相は、土曜日なので戸塚カントリークラブでゴルフをしていた。午前10時50分にSPの携帯電話を通じて第1報が入ったが、そのまま1時間半ほどプレーを続けたことが問題になった時に、彼は「関係者から、直ぐにはその場を離れないように言われたのでゴルフ場で待機していた」と言い逃れようとした。が、日本人が何人も亡くなっているというのにゴルフ遊びはないだろうと言われ、テレビも森がゴルフに興じる映像(ただしこの日ではなく別の日のもの)を繰り返し流して煽ったので、それでなくとも下降していた支持率がさらに落ち、結局、「森では7月参院選が戦えない」ということで4月に辞任することになりました。

自らの言動のせいで2度までも要職を失うというのも珍しいことで、この人の業の深さを感じますが、それだけでなく、ちょうどこの時期に支持率を一段と下落させるような泣きっ面に蜂のような事態が起き、4月にはいよいよ行き詰まり、辞任せざるを得なくなるかもしれない菅の運命をも暗示しているように見えます。いや、もっと言えば、森の業が菅の背中に取り憑いて地獄への道に引っ張り込んでいるような感じさえするのです。

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