資生堂に異変。米国仕込の「プロ経営者」が日本の老舗企業を食い物にしている?

 

結論から言うと、株価維持になりふり構わぬ魚谷社長の経営姿勢をめぐり、魚谷氏が外部から招いた幹部社員とプロパー社員の分断が深まっているのだ。

2018年までの12年間、資生堂の社外取締役を務めた早稲田大学名誉教授、上村達男氏は魚谷氏を社長に推薦した1人だが、昨今の魚谷社長の経営姿勢については憂慮しているようだ。2月2日の東洋経済オンラインに掲載された記事の一節。

上村氏は何を憂えているのか。魚谷氏に対しては経営者としていいイメージを持ったまま、資生堂の社外取締役を退任した。その後、直接の接点は持っていないが、関係者から伝えられる情報や公表情報から資生堂の動きを見ていると、「最近漏れ聞く魚谷さんはかつてのイメージと違う人のように感じる」

上村氏がとりわけ「根深い問題」と指摘するのは、昨年11月に起きた騒動だ。

11月10日、資生堂公式サイトに、ネット通販「ワタシ+」で、主力ブランド「SHISEIDO」の化粧水などのセットを希望小売価格の平均30%オフ(卸価格と同額)で販売するというお知らせが掲載された。しかも、セールのスタートは翌日の11日からだった。

化粧品専門店の多くは中小零細の個人事業主である。ただでさえ、ドラッグストアやスーパーの低価格路線に脅かされているというのに、メーカーである資生堂本社までもが、安売りに乗り出すとなれば、黙って見過ごすわけにはいかない。

複数の化粧品メーカーのブランドを扱っていても、専門店における資生堂のウエートは大きい。「対面形式によるカウンセリング販売」を基本とする資生堂の方針を忠実に守り、資生堂ブランドを本社とともに育ててきたという意識が強いのも専門店のオーナーたちである。

資生堂本社の窓口には抗議の電話が殺到した。専門店の経営者たちが「どういうことなのか」と回答を求めると、窓口の社員は「公式見解を出すまで、いま少しご猶予を」とオロオロするばかり。それもそのはず、異例のネット値引き販売は、魚谷社長と、外部から魚谷社長が引き抜いたごく一部の幹部やマネージャーたちが決めたことで、ほとんどの社員は事情をよく呑み込めていないのだ。

昨年11月、資生堂は最終220億円の赤字見通しを発表していた。しかし、本決算ではさらに下方修正される可能性があり、200億円近いコストを発生させないため、過剰在庫をマーケットで可能な限り処分する必要に迫られた。異例のバーゲンセールを魚谷社長が決断した主な理由はそれだ。

全国の専門店から湧き起るごうごうたる非難に、魚谷社長は「お詫び文」を出すとともに、11月30日でのセール打ち切りを約束した。「社内での協議が不足し、専門店への影響に配慮できなかった」という趣旨の文面だったが、短期の効率と数値を追う魚谷社長に対する不信は、資生堂が培ってきた販売精神を重んじる社員たちの間にざわざわと広がった。

日本コカコーラ時代に自分の会社を立ち上げ、当時の部下であった女性を、資生堂の人事部長に据えるなど、次々と幹部クラスやマネージャーを外部から招へいした魚谷体制は、もともと社員分断的な側面をはらんでいたのだが、この一件により社内の亀裂はより深まった。

このような状況下、おそらく、魚谷氏は藤森氏という強力な味方を必要としているのだろう。アメリカ仕込みという面で、米GEシニア・バイス・プレジデントまでつとめた藤森氏は魚谷氏の上を行く。2011年8月、LIXILの社長になり、就任時3%にすぎなかった海外売上高比率を、30%近くにまで高めた手腕はGE流の「選択と集中」と評価されたものである。

ところが、子会社にした中国企業ジョウユウの不正会計、破産で、660億円をこえる巨額の損失を抱え、社長を退任した。M&Aによる成長戦略を好む「プロ経営者」らしい躓きだった。

print
いま読まれてます

  • 資生堂に異変。米国仕込の「プロ経営者」が日本の老舗企業を食い物にしている?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け