海自と海上保安庁に欠けている「インターオペラビリティ」とは何か?元海将の重要指摘

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尖閣諸島周辺などで活発化する中国の動きを念頭に、外国公船・軍艦が日本に上陸するため領海に侵入した場合「危害射撃」が可能になるとの見解を示した日本。その判断を評価するも、運用面で課題が残っていると指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、同じ海域で円滑に行動するためには、海上自衛隊と海上保安庁のインターオペラビリティ(共用性、相互運用性)がないことがネックになると明かした元海将の認識を紹介し、海保の装備の問題を改めて訴えています。

海自と海保のインターオペラビリティ

3月1日号の編集後記で「危害射撃で海保が抱える問題」と題して海上保安庁と海上自衛隊の間のインターオペラビリティ(相互運用性)について書きました。

日本は「危害射撃」で尖閣を守れるか?軍事アナリストが抱く海保の不安

法的に該当する場合には海上保安庁も危害射撃をすることが可能との政府見解が示されたことを受けて、まだ残っている課題があることについて述べたものです。

この編集後記では、私が海上保安庁の政策アドバイザーとして次のように問題点を指摘したときのことを紹介しました。

「導入が検討されているスウェーデン・ボフォース社の40ミリ機関砲は、性能面では一定の水準にあるが、相互運用性(インターオペラビリティ)の面で重大な欠点がある。この機関砲は南米のアルゼンチン海軍しか採用しておらず、弾切れになった場合、周囲に海上自衛隊や米海軍の艦船がいても、弾薬の提供を求めることができない。少なくとも海上自衛隊と弾薬を共有できる機種にすべきではないか」

これに対して、当時の海上保安庁長官が「われわれは警察ですから、そんなに撃ちませんから」と答えたことについて、

「当時の海上保安庁が、外国の海上警察組織と衝突する事態などまったく想定していないことがわかりました。せいぜい密輸・密漁業者相手に威嚇射撃できればよいと考えているレベルだったのです」

と、海上保安庁の文化や体質を批判した訳です。

すると、「護衛艦がミサイルを急いで再補充したいというなら分かる。でも巡視船が機関砲弾を急いで再補充しなければならない状況が分からない」というツイートが登場しました。そのように受け止める人がいるのですねぇ。というわけで、私を含めて実際に安全保障に関わる立場からの認識を、元海将のコラムから紹介しておきましょう。

2019年3月26日付の『国家基本問題研究所ろんだん』に掲載された太田文雄元防衛省情報本部長(海将)の一文です。

「米海軍のイージス駆逐艦カーチス・ウィルバーと沿岸警備隊の巡視船バーソルフが、3月24日、台湾海峡を通過した。米海軍の艦艇が台湾海峡を通過するのは昨年10月以降、毎月行われているが、沿岸警備隊の巡視船が加わるのは初めてである。米国の軍艦と巡視船は、同じ指揮・管制・通信・情報システムであるため、同じ戦術ピクチャー(状況図)を共用することができる。弾薬・燃料・階級章に関しても同じであるが、海上自衛隊と海上保安庁の間には共用性がない。これでは純然たる平時でも有事でもない事態、いわば『グレーゾーン事態』での円滑な作戦に支障が生じかねない。(後略)」(2019年3月26日付 『国家基本問題研究所ろんだん』より)

太田さんは護衛艦の艦長、護衛隊司令などを歴任し、いわば海上保安庁との共同行動を考える立場にいた人です。海将として防衛省情報本部長を務め、退官後は6年にわたって防衛大学校教授のポストにありました。上記の文でも、具体的に弾薬の問題を述べています。

さきほどのツイートのご本人が、海上自衛隊と海上保安庁は別々のリングに上がって戦うものだと思い込んでいはしないか、いささか心配になります。(小川和久)

image by:kuremo / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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