五輪「中止や延期不可」の謎。ネックは選手村マンション転売問題か?

 

この「開催都市契約」とその「運営要件」ですが、大きな前提となっているのは「オリンピック東京大会」というのは、完全に独立採算だということです。契約書では「開催都市、開催国の五輪委、当該五輪の実行委」の3者、つまり今回では「都、JOC、実行委」の3者を一つの団体として考え、これが大会の全てを仕切るという考え方です。

ですから、この3者(以降は「東京サイド」という言い方にします)の経営が甘くて、何らかの追加費用が発生した場合にはIOCには一切負担する義務はないという考え方で、契約の全体が組み立てられています。その一方で、五輪をIOCの決めているレギュレーションを守って開催する義務が、「東京サイド」には負わされています。

こうした契約のスキームに関しては、「不平等条約」だとか「治外法権」などという批判がありますが、そもそも、ロンドンにしても、リオにしても同じようにこの契約スキームで実施しています。また、元来が、猪瀬=安倍=竹田=森の4名を中心に招致が進められた時から、日本サイドとしては受け入れている条件ですから、今更文句を言っても始まりません。

例えば、大会開催にあたっては医療従事者を手配しておくということも、この「開催都市契約」で約束しているのですから、開催する以上は「東京サイド」としては、その約束からは逃げられません。

そんなわけで、コストの負担については、基本的に明朗会計であり、「東京サイド」としては東京大会に関する費用が追加で出た場合には、東京サイドとして負担しなくてはなりません。また、大会が中止となった場合の追加の費用についても、それが東京大会の中止に関するコストであれば、東京サイドの負担になります。ということは、この部分に関しては憶測とか怪談といった話にはなりそうにありません。

もう1つの契約のスキームとは、放映権料の扱いです。大ざっぱに言って、最も大口の放映権料は、米国のNBCが東京、パリ、ロスまでの長期契約で、そのうちの東京の分が約1,300億円(12億ドル)と言われています。仮に中止になった場合は、IOCとしてはその額が入らなくなるわけで、そうするとその全額を「違約金」として東京サイドに請求するという噂があるわけです。

確かにそうなれば、東京サイドの負担額は大きくなりますし、何よりもIOCの収入減について全額を東京が「かぶる」というのは理不尽です。「ぼったくり」というような言葉が独り歩きしているのも、この点を中心にしたものだと思います。

ところが、この問題、つまり「もし放映権料が入らなかったどうするか?」という点については、IOCと東京サイドには契約が存在するようです。

これは、「BRA」というものです。正式には“Broadcast RefundAgreement”といって、そのものズバリ「放映権料返金契約」ですが、日本語訳としては「IOC拠出金の払い戻しに関する契約」という名称になっています。

尚、私の入手した契約書は、2017年12月26日に作成されたというサインのない契約書案ですが、東京都のドメインにぶら下がっていた(リンク不明)ものですから、相当に正式なものだと思います。尚、この時点では2018年2月頃に契約締結予定となっており、別の後日の資料によれば、実際には2018年2月24日に締結されたようです。

尚、この2018年の2月24日に締結されたというのは、より公式性の高い資料にあったものですから、恐らく事実だと思われます。また、2017年の12月から2018年2月にかけては、まだパンデミックの予兆すらなかった時期ですから、契約を変更する理由はなさそうです。ですから、この文面で締結されたと考えることにします。

またこの文面ですが、2020年9月29日に東京サイドとIOCが締結している「1年延期に伴う契約改定(アメンドメント4)」には、「BRA」はそのまま有効であると書いてあります。したがって、問題の「BRA」は現在も有効と考えられます。

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