五輪「中止や延期不可」の謎。ネックは選手村マンション転売問題か?

reizei20210518
 

巷間まことしやかに語られていた五輪中止に伴うIOCへの高額な違約金支払い問題ですが、どうやらその信憑性は低いもののようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、とある「契約書」を読み込んで判明した、五輪の中止や延期に関するIOCと東京サイドの間の金銭に関する取り決めを紹介。その上で、菅政権が中止や延期をできない理由を考察しています。

【関連】IOCとの契約を公開せよ。東京五輪「辞退で補償金1200億請求」の真偽

五輪追加費用、問題はIOCより国内の利害調整では?

新型コロナウィルスの感染拡大は、緊急事態宣言の対象地域がどんどん広がる一方で、ワクチンの接種体制については苦しい実態が明らかとなり、7月末までに65歳以上の高齢者のうち希望者には全員接種という目標は、達成が困難であると言われています。

そんな中でも、菅総理をはじめとして、政府は「五輪は開催できる」という姿勢を崩していません。一方で、世論調査を行うと、調査にもよりますが中止もしくは延期という意見が60から80%は出るという状況です。

このメルマガ『プリンストン通信』の「USAレポート」では、ここ数回、この問題への懸念を2つの角度から検証してきました。1つは号外でお届けした「五輪の食事会場などで選手等の行動監視員」が導入されるという案への懸念、そしてもう1つは、そもそもIOCと東京五輪の間の契約が公開されていないので、「中止を言い出したら違約金が1,200億」などという「怪談」がまかり通っているという問題についてです。

【関連】IOCとの契約を公開せよ。東京五輪「辞退で補償金1200億請求」の真偽

後者の契約問題ですが、本メルマガでお話して以降も、ネットだけなくTVや新聞などで更に様々な説が飛び交っています。ですが、議論を先に進めるような内容は乏しいのが現状です。そこで私も、この間、引き続いてこの契約問題についてネットを使った追跡や検索を繰り返して来ました。以降は、そのご報告です。

まず主要な契約スキームとしては2つあるようです。

お断りをしておきますが、この2つに関しては、最新の有効なものという確証はありません。人類史上、そして五輪史上未曾有の事態である、新型コロナのパンデミックを受けて、契約書の書き換え(アメンド)や追加の議定書合意(サプリメント)などがされている可能性がありますし、またイベント開催保険のスキームなどは知りようがないということもあります。

そうではあるのですが、依然として、IOCも東京五輪実行委も、この問題に関してはダンマリを続けています。ですから、現時点で入手できた証拠を元に議論をするしかないし、議論の叩き台としてはそれでいいのだと思います。

2つの契約スキームのうち、1つ目は「開催都市契約(ホスト・シティー・コントラクト)」というものです。これは主要な契約書

HOST CITY CONTRACT(英語)
開催都市契約(日本語)

がまずあり、更に細かな実務規定である「大会運営要件(オペレーショナル・リクワイメント)」も合意されています。

HOST CITY CONTRACT OPERATIONAL REQUIREMENTS(英語)
開催都市契約 大会運営要件(日本語)

こうした基本的な契約書については、現在もこのように東京都のHPにある五輪のページからリンクがされており、最近ではこの「開催都市契約」をベースにした議論も見られるようになってきました。

この「開催都市契約」ですが、現在のような形になったのは五輪が「アマチュアの祭典」から「プロを含めた巨大な祭典」に変化していった1980年代以降のことです。例えば、評判の悪いロゴの使用規定など、五輪に関して「これはできる」とか「これはできない」といった詳細な取り決めは、この「運営要件」を見れば分かるようになっています。

print
いま読まれてます

  • 五輪「中止や延期不可」の謎。ネックは選手村マンション転売問題か?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け