最初にお断りしたように、「ねじれ」イコール即時解決が必要というわけではありません。ですから、この4つのねじれが解消し、例えばですが、台湾国民党の影響力がなくなり、台湾独立派が圧倒的な民意を獲得するとともに、日本国内に「枢軸の名誉は求めない自主武装派」が成長し、また沖縄世論がそれを認め、同時に在沖米軍も友軍扱いするようになったとします。
そうなった場合に、台湾の安全は確実なものとなるかというと、そうではありません。敵味方のエネルギーがマックスになるような形での「ねじれの解消」は、全体を不幸にする、そんな巨大なパラドックスもあります。換言すれば、さまざまな「ねじれ」に足を引っ張られることで、台湾海峡には不思議なバランスが生じているのは事実のようです。ですが、その微妙なバランスを崩さないために、政治や論説の現場では、海峡に関係する「ねじれ」の問題については、正確な理解をしておくことは必要と思います。
ちなみに、台湾海峡の最前線というのは、海峡の中心線ではありません。そうではなくて、金門(島)と馬祖(諸島)という小さな島々です。金門は、厦門市のすぐ対岸、馬祖はそれより北東に位置し、いずれも福建省の本土から目と鼻の先です。
台湾は、この2つのエリアを、60年代までの壮絶な戦闘を通じて死守し、実効支配を確立しています。仮に、台湾海峡に波風が高くなるとしたら、この金門と馬祖は真っ先に動揺することでしょう。ですが、現時点ではその気配はありません。
反対に、金門島も馬祖諸島も、大陸からの観光客が殺到する中で、中台が共存する空間となっています。携帯回線は基本的には台湾ですが、大陸サイドの「闇基地局」もあるという話で、奇妙な、そしてかなり確かな平和が実現しているわけです。2021年時点における最前線は、とりあえず落ち着いているという理解が必要です。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
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