中国と“全面衝突”は不可避か。G7首脳宣言に「台湾明記」の大バクチ

 

日米首脳会談後に3割減少した台湾海峡上空への“領空侵犯”と威嚇行為

二つ目は、あまり強調されることはないのですが、G7各国の外交政策・戦略上の方針大転換です。

言い換えると、これまで中華人民共和国(北京)と国交を樹立し、代わりに台湾政府(中華民国)との国交を断ってきたはずの国々が、“公式な”外交関係がないはずの台湾を名指しでサポートし、中国(北京)に公然と挑戦状を突き付けるという動きになります。

私には非常に大きな動きに見えるのですが、実際には先週もお話ししたとおり、日米は少なくとも(そして欧州各国も)今後とも台湾と国交を回復するつもりはなく、北京との国交は残すことに変わりはないでしょう。もちろん、それは北京政府も“同意”すればの話ですが。

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では、G7サミットを控えて、北京はどのような反応を示しているのでしょうか?

もちろん黙っていることはなく、常にあの手この手で牽制球を投げつけてきていますが、その牽制球の投げる先には変化が見えてきています。

ターニングポイントになったのは、おそらく日米首脳会談直後だと思われます。日米両国が大きく踏み込み、台湾へのコミットメント強化を明言し、加えてアメリカ政府が、日本のインド太平洋地域での軍事的なコミットメント強化を“容認”する方向に出たことで、中国の戦略の転換が見られます。

その顕著な例が、緊張の舞台を台湾海峡から東南アジア・南シナ海へ移したということです。

実際に、日米首脳会談後、台湾海峡上空への“領空侵犯”と威嚇行為が、なんと3割減少したという傾向がみられています。

別に人工知能による解析ではないと思いますが、このまま台湾海峡という“狭いエリア”を舞台にした中国と米(プラス日本)の直接的な対峙が、今後、軍事的なテンションに急発展することを避ける戦略に出たようです。

その代わりに、5月末ごろから中国による軍事的な威嚇行為の舞台がASEANに移されたように思われます。

驚いたのは、比較的親中国というイメージが強いマレーシアに対する領空侵犯を強行したことです。表面的には、南シナ海での救難救護の訓練のための飛行という説明をしていますが、対中包囲網の各国の注意を、台湾海峡から南シナ海にスイッチしたのではないかと思われます。

それと並行して、今年3月から継続し、フィリピンとの間で紛争事案になってきた【数百隻レベルの中国船舶の長期停泊】については、中国側からの解決の意図が示されず、代わりに空からの威嚇を加えることで、ASEANへの力の行使と威嚇を鮮明化させ、強硬的に勢力の拡大を急ピッチで進めているようです。

このような強まる中国の威嚇に危機感を感じ、6月7日に開催された中国とASEANの外務大臣会合(目的は、南シナ海での紛争防止、ミャンマー情勢、そしてコロナ対応)の機会に、各国から王毅外相への直接的な抗議が行われたと聞いていますが、王毅外相がどのような反応を示し、ASEAN各国とどのような結論に至ったかはなかなか聞こえてきません。

ただ、中国がASEAN各国に対して謝罪を行ったり、態度を軟化させたりするというケースは考えづらく、逆に各国からの“抗議”を機に、多方面からの締め付けを強めたのではないかと思います。

例えば、これまで継続し、経済的に支配を進める一帯一路政策を通じた締め付け(特に累積債務関連)に加えて、昨年来、拡大している新型コロナウイルス感染症に絡んだ戦略物資と医療物資を用いた社会・衛生政策の支配がそれにあたります。

コロナのパンデミック当時は、マスクと医療物資の優先的な供与(しかし、無償で提供は限定数で、それ以上のサプライについては有償での供与として、ここでまた政策的・財政的な締め付けを強化)を通じた支援で対中依存の基盤を固め、今はワクチンの供与を餌に各国への揺さぶりをかけています。

つまり経済・社会的な側面での対中依存度を高めることで、真っ向から中国に対抗できなくしてしまい、その隙に、中国が狙うOne Asia戦略の実行のための軍事的な威嚇行為と一方的な占領によって安全保障上の脅威を鮮明化して、中国に逆らえない素地を確立してしまっているようです。

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