知らないのは情弱だけ?エンジニアが教えるIT業界の“ダークサイド”とは

 

残酷なネット広告のテーゼ

ただ、インターネット広告が出てきてからその地図は一変しました。もうね、残酷ななんとかのテーゼっていうくらい、残酷に明確に数字が出ます。この広告に変えたら1日にこの広告が何回表示されて、そのうちクリックした人が何%。その中の何%が申し込みに進んで、おいくら万円ずつ平均使ったからトータルの売り上げはおいくらだから広告比率で何倍ですね、これは効果ありますね。もっと出しましょうね、となんだか得意な分野のネタを振られ早口になったようなオタクみたいに、やたら数字がすっきりはっきり示されて、色んな意味で費用対効果がバッチリ出てくるようになった。もうね、映像のクリエイティブとかサラサラな髪の毛がどうとか関係ない(いや、あるけど)。

ともかくこの路線を突き詰めていくとどんどん効果が上がるからAとBどっちがいいんだ、さあ試せ、PDCAぐるぐる回せ!となんだか書いててぐったりするような理詰めの世界に広告業界はなってきたので、ともかく「的確なターゲットに的確な球を投げる」ことが至上命題になってきたわけですね。

あたりまえだけど、酪農やる予定のないやつに乳牛乗せてぐるぐる回す愉快な機械を売り込んでいる場合じゃない。その人がいま「本当に求めているもの」を正確にピッチすることこそが、広告効果を最大にあげるための手法なのだ!あはははは!

と、なんだか徹夜明けに演説して変なテンションになっちゃった人みたいに、やたら盛り上がって「データ至上主義」と「効率性」が高らかに歌い上げられる時代になったわけですが、そこでもっとも大事なのが「で、どうやって正確な球を投げるの?」という問題です。

それはその、あの…

なぜか今までテンション爆上げだったその人は、その質問に答えようとすると若干切先が鈍るのですよね。「んー、まあ、あのー、さまざまなデータを勘案して総合的に判断」というのが答えですが、じゃあその“さまざまなデータ”って何?というと実はそれは「アプリやサービスから吸い上げたユーザーの行動データ」ということになるわけですな。

ユーザーの行動データ、たとえばスマホであれば今どこにいるのかというのをGPSで知ることができます。バーコード決済を使えばどこで何を買ったかもわかるし、なんならビーコンを捕まえて特定の場所に近づいたこともわかりますね。

あと、当然だけど倫理的なことをこっちに置いておけば、メールを「分析」すれば、その人がどこで何を買ったのか、どのホテルを予約してどの電車に乗る予定なのか?なんのライブのチケットを買って、ECでどんな商品を注文したのかを知ることができれば、むちゃむちゃ正確に「その人が何をしていて今何を求めているのか」を推測することができるわけですね。

でも、それ…あなたはどうです?私みたいに「楽になるんだったらなんでも調べていいよー。全然気にしないし」というタイプだったらいいけれど、単に「それを知らずに奪われていた」ということに気がついたら(そしてあえてそれを知らせる努力をしていなかったら)なんとなくいやーな気分になる人も少なくないのかもしれないですね。

まあ、つまりざっくりいうとさっきの「いろんな情報を総合的に判断」というのはそういうことです。なんつーか会社も慈善事業じゃないんで本当の意味で「完全無料」でサービスを提供することは、よほどの茶人じゃないと難しいです。

一見、そういう条件はないかな。と思いきや、サービスに登録するときに「あれ?これ視力検査かな?」と思うような9ptくらいのちいさーい文字でジャラジャラと書いてある文字。そうあなたがろくに読まずに「同意する」を押しているあの中に、あなたのそのサービスで使うデータを転用して分析しちゃうよ!もしかしたら関連会社に提供することもあるけど、ごめんしてね。てへぺろ!って書いてあることが多いわけです。

そしてその吸い上げられたデータは、何ダースもの統計学の博士号を持っているようなエンジニアたちによって「あーでもない、こーでもない」と分析されて、がちゃがちゃっと計算された結果「うん、こいつには搾乳機のCMを出すと効果が高い!」という結論が出されるというわけですね。

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