急転する問題
翌日の夕方、A子さんから連絡が入った。
「加害グループから呼び出されたから、とりあえず会ってくる」というものだった。
録音機は持たせているので、必ず録音を取って、自白の証拠に使うと息巻いていたが、スタッフが確認したところによると、なりすましのSNSアカウントは消えたが、すぐに類似のアカウントが鍵付きでできているとのことであった。
そこで、私は、その日調査を終えて、たまたま調査機材の充電をするために戻ってきていたスタッフ1名を連れて、A子さんが待ち合わせをしたという場所へ向かった。
現地のファーストフード店に行くと、A子さんはすでに5人の加害グループに囲まれており、肩に腕を巻き付けられて、何やらひそひそと耳打ちされていた。時間を追うごとに、A子さんの顔色が悪くなっていくのが分かった。
ただ、事前に決めていたA子さんからの「GOサイン」が出ない。私に気が付いているはずなのだが、A子さんは目を伏せたまま、店を出てしまった。
店を出たところを追うと、A子さんのあとから加害グループも出てくるのが確認できた。私はスタッフに加害グループの監視を任せ、A子さんの近くを離れないようについていった。
A子さんに近づいてきた男性は2人組であった。
その男たちはA子さんを知っているようで(偽カウントには顔も出ていた)なれなれしく声をかけていた。二言三言という感じで、駅からしばらく歩いたところのラブホテル街に進んでいき、派手な看板のラブホテルに男の1人とA子さんは入っていった。道すがら聞こえてきた話では、ホテルはカップルでしか入れないから、先に入る方がどっちかを男らは話していた。
そのホテルの入り口で、A子さんはやっと私に合図を出してくれた。
私はすぐに後追い、A子さんに「未成年でしょ?」「ちょっと話を聴かせてくれる?」と声をかけたのだ。
男は目を白黒させて、周囲を見てから、私しかいないことを確認したところで、一目散に走って逃げて行った。
その様子は、加害グループに張り付いていたスタッフも確認していた。
ホテルから走り出てきた男は、まさに追われている犯人そのものであり、その様子を「援交現場─」とスマホのカメラを向けている加害グループにも、同様に伝わっていた。
異変があったことがわかった加害グループも「やばい」と言って、逃げ出したのだ。
走り出た男も外で待つもう一人の男に、「警〇、たぶん、やばい」と言って一緒に走って逃げて行ったものだから、加害グループはさらに混乱したようだ。散り散りに逃げたが、スタッフが中心人物らしき子を追うと、しばらくして他の加害者が合流してきたそうだ。
それとほぼ同時期に、この時やり取りしていたA子さんと加害グループのLINEグループは、加害グループが全員が「退出」し、「メンバーがいません」と表記されるようになった。
スタッフがそこで耳にした話によると、私が付けていた無線機用のイヤホンマイクが、どうやら勘違いした理由であったようで、私は加害グループのカメラにしっかり記録されているということであった。
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