急展開からその後
翌日はA子さんには学校を休んでもらい、その間に特急で調書を仕上げて、私は学校に向かった。学校は生徒らが帰ってから来てくださいということであったので、下校時に敢えて目立つように校門の前に立ってみた。すぐに教職員が来たが、自己紹介をして、早めに着いてしまったからと話してその場で30分ほど立ち話をした。
学校は午後4時には生徒の追い出しをするそうで、その中には加害グループの生徒ももちろんいたが、わかりやすいほど動揺し、顔を隠して逃げるように通り過ぎて行った。
学校はその後の私の説明と、当日取られた録音のテープ起こしを見て、私に「どうか穏便に」と土下座をする勢いで懇願してきた。
そこで、加害グループには相応の処分を求め、その日の話し合いは終了した。
学校からはその後、A子さんの保護者に対して、加害グループの反省文で手を打ってほしいとか、異例のクラス替えをするので、そこで手を打ってもらえないかなどを話してきたそうだが、結果としては、加害グループの中心人物2人が学校に来なくなってしまい、話し合いが長引く中、進級する際に自主退学をしたことで話し合いは事実上立ち消えるようになってしまった。
また、A子さんからは、確かにそれ以降いじめはなくなり、それなりに過ごせているから平気だよという話もあった。
「クラスの人とは距離を持つようになったし、元通りにはならないし、もう深く立ち入ることもないけど、それなりに笑ったり、音楽シェアしたりもするから。嫌がらせもないし、あの人たち(残った加害グループ)は、逃げるし。バカなんじゃないしか思わないよ」
「それより今は、ちゃんと大学入って、自分の将来を考えないと」
A子さんが、2021年になって、大学に推薦で合格したということは私にとってすごくうれしい報告だった。いつか真実を暴くジャーナリストになって、私を取材してくれるそうだ。
今では、「あのホテルに助けに行ったとき、男の顔が間抜け過ぎたね」という話が笑い話になっている。未だに深く人とは関わりたくない衝動があるとのことだが、少なからず、私にはいろいろな話をしてくれるようになった。彼女はもう乗り切ったのかもしれない。
なにせ、あの男の間抜け顔の真似をするくらいなのだから。
編集後記
今日8月9日更新の『いじめ探偵』(やわらかスピリッツ)の題材の一部となった子の話を今回は書きました。
『いじめ探偵』は、いくつかの事案を構成しています。そのため、今日のものが、ちょっと違うじゃんと思う方もいるとは思いますが、それはそれということでご容赦ください。
何より、学生にとっての夏休みは、1年の中で最も気が緩みやすくなる期間で、このコロナ禍で遊ぶ場も特になく、ネットでウロウロする子は、そうした子を狙う人らのターゲットになりやすい傾向が強くあります。
被害なしは本当に運がよいだけであり、被害を受ければ一生ものです。
保護者に当たる人には特に注意してもらいたいし、学生には「絶対大丈夫!」ということはないと考えてほしいです。また、何か困っている子を見掛けた人には、声をかけてあげて欲しいと思います。
相談を受ける方法や解決する方法を私に質問する人が多くいますが、コツもテクニックも基本はあるけど、付け焼刃が通じるほど甘くありません。
ちょっと習ったテクニックを使うよりも、とにかく徹底的に向き合う強い気持ちの方が、絶対に役立ちます。
道で見かけた困っている人に、「俺は貴方を助けたいのだ!」という真っ直ぐな気持ちで対応すればよいです。「お節介」と言われても、「お節介、上等だよ」でいいのです。
いじめも含めて、その他の問題もしっかり向き合う、行動で示す。私はこれでよいと思います。
一番大事なのは、やっぱり気持ちなんだと思います。
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