相場をやってると、親父の声が聞こえてくる…
僕が原稿ばかり書き、横浜に15部屋もあるでかい家を建てられたのはオフクロがいたからで、親父のように徹底的に相場にのめり込まず、オフクロの説教をある程度守ったからだ。バブルの頃は貯金もあったから、これからは遊んで暮らそうと休筆宣言をした。
ところが原稿書きを止めた頃から、妙に相場に手を出すようになってしまった。その頃から妙に親父のことを思い出す。
「ここで売ったらダメや、買いや、買い!」
意味深な親父のそんな声が耳元でする。
──ひょっとしたら儲かるかも
親父と同じようにそうと思って相場を張ったが全部ダメで。おまけに主宰していた雑誌が大赤字で、それまでエロ小説で稼いだ財産を全部なくして、おまけに借金まで抱え込んだ。
「あんた年取って、ほんとお父さんに似てきたねぇ…」
オフクロにしみじみ言われたことを覚えている。
──お母さん、ほんとうだね。60歳を過ぎてから、声まで親父に似てきたと我ながら感じている。
──でも、お母さん、全財産をなくしても、今日、食えていけたらええやないか。
と、落ち込まないとこまで、僕はお父さんにそっくりだ。
横浜の家を借金のかたに取られ、こじんまりとしたこの家に引っ越してきてすぐに、オフクロが92歳で亡くなった。振り返ると年取ってからの相場は別として、人生の脱線はSMの小説だけで後はまともに生きるように、ずっと見守っていてくれていた、僕にとって家庭教師のような存在がいなくなってしまったような気がした。
金がなくなったのだから、また原稿を書き出す、場当たり的な僕の人生は親父にそっくりだ。懲りることを知らない僕だから、バイアグラでも飲んで残りの人生も女とやりまくろうかと思っている。そんな僕にも息子はいる。
ちょっと待てよ、最初の女房の子供の孫と、今の女房との間に出来た子供と、たいして年が変わらない。酔っぱらうと、どっちが息子でどっちが孫か、よくわからなくなっちゃうんだけど、まあいいや。
二人とも、あまり勉強するな、大学にいっても何もならん。後先考えない人生も悪くないぞ。
(ビッグコミックオリジナル1998年11月5日号掲載)
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image by: Yasu (talk), CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で