終戦76年を迎え、戦争の風化が一段と進む日本。だからこそマスメディアには、「歴史の伝承者」としての役割がより一層期待されているわけですが、コロナ禍と自国開催五輪が重なった今夏、彼らはその重責を果たすことができたのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では毎日新聞や共同通信に勤務経験のある引地達也さんが、終戦記念日に放送された「NHKスペシャル」を取り上げ、メディアが十分に機能したか否かを検証。さらに戦争の記憶が薄れつつある現在の日本にあって、アフガニスタンの事態を自分事として捉えるため考えるべきことについて考察しています。
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「終戦記念日」を伝えるメディアは市民の視点で
アフガニスタンで次々と地方都市を制圧したタリバンが首都カブールに迫ったというニュースが流れた8月15日、日本では今年も終戦の日を迎えた。
過去の戦争と向き合う日に新しい戦争が起こっている事実に雑然とした思いで、記憶を受け継ぐのが課題になっている戦争に思いをはせた。
私の親戚や周囲からも戦争を伝える人は亡くなり、国家単位で「何を受け取り」「何を伝えるのか」の伝承は大きな課題だ。
広島と長崎の原爆投下と終戦の日の8月15日までの8月前半は第二次世界大戦に関する回顧や、大戦による被害や影響が今も続く心に寄り添うとする報道が集中的に発出され、それは日本特有の「8月ジャーナリズム」とも呼ばれる。
戦争を二度と繰り返さないという国家と民衆の決意とともに、8月ジャーナリズムは市民のコンセンサスを得ながら(時には反発も受けながら)、各メディアが新しい事実や現状を正確に伝えようというエネルギーにつながっている。
そのエネルギーは毎年、テレビのドキュメンタリーや新聞の特集記事で熱を帯びた調査報道の結果として、新事実が発掘されたり、新しい証言にたどり着いたりし、メディアはその「伝承」の役割を担う気概を見せてきた。
しかしながら、今年はコロナ禍も影響しているのだろうか、そのエネルギーはやや停滞気味で元気がない印象だ。
特に終戦の日のNHKスペシャルはここ数年注目してきたが、今年は「開戦 太平洋戦争~日中米英 知られざる攻防~」と題したもので、蒋介石の公開された日記を写し書きした研究者の研究を中心に構成されたものだった。
公式ホームページ上の説明は以下である。
中国国民政府を率いた蒋介石の膨大な日記の全貌が明らかになった。近年公開された蒋の外交史料と合わせて浮かび上がるのは日中戦争の国際化をもくろんだ戦略である。そしてアメリカ・イギリスの思惑も交錯しながら太平洋戦争開戦へとつながっていたのである。一方で、日本は多くの選択肢がありながら「引き返し可能地点」を何度も失っていたことも明らかになった。太平洋戦争開戦秘録から浮かび上がる現代への教訓とは。
盧溝橋事件を発端として日本が日中戦争を遂行する中で、蒋介石がどのように考え、ふるまってきたかはこれまで多く語られてきた。
終戦後に台湾に追われる形になった蒋介石の物語は日本では同情心を持って受け入れられ、特に親台湾派からは様々な情報が出てきている。
今回のドキュメンタリーは、中国の正統性の問題等でまだまだ語ってよい内容ではあるが、終戦の日のテーマとは「遠く」、そしてこの日に放映するには違和感を覚えた。
蒋介石は日中戦争の国際化をもくろみながら、結果的に日本は窮地に追い込まれた形で真珠湾攻撃で米国に宣戦布告することになったが、このテーマは太平洋戦争の開戦に関するものであり、真珠湾攻撃のあった12月に取り上げるべきではないかとも思う。
そして、それは政治や軍人の物語であり、庶民の物語ではない。
8月ジャーナリズムの主役は一般の国民であるべきだろう。
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