北朝鮮は“大量餓死”寸前。大規模水害で食糧枯渇、金正恩「植林」号令で危機に拍車

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先日掲載の「韓国の国民はウンザリ。金正恩に利用される文在寅「北のご機嫌伺い」」では、韓国との通信連絡線を7月27日に突如復元させた金正恩政権の突然の方針転換の裏にある、態度を変えざるを得なかった苦しい北朝鮮国内の状況を解説しました。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では北朝鮮研究の第一人者である宮塚利雄さんが、食糧不足に悩む北が農作業よりも「植林」に力を入れるよう命令しているという金正恩の理不尽な要求について紹介。飢餓の危機を迎えている北で何が起きているのでしょうか?

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北朝鮮の食糧不足は深刻な状況から飢餓への一歩

長年にわたり北朝鮮の農業、食糧問題を追跡しているが、今年の北朝鮮の食糧不足問題は深刻である。

よく言われるように「ロシア政府は国民に“何を言ってもいい、「食べる問題(食料)」は自分で解決せよ”。中国政府は人民に“何を食べてもよろしい”、しかし“口は慎め”」であるが、北朝鮮は「食べるものもなし、物言えば唇寒し」の国である。要は「食べるな、話すな」の独裁国家であるが、金正恩は2012年4月に最高権力者になった時に「これからは人民を飢えさせない。人民がこれ以上ベルトを締めることがないようにする」と大見えを切った。しかし、太ったのは自分だけで、多くの人民は“飢え(食糧不足)”に呻吟(しんぎん)しているのが実情だ。

北朝鮮は今年の春から、田植えの準備もままならぬ中で、「植林事業」を進めたのである。いわゆる“農作業より木を植えろ”ということであるが、なぜ、農作業よりも植林事業を進めたのか。「治山治水」を目標に、「1か月で1億本超」を植えたという。

中朝国境から北朝鮮側を見ると、どこも山肌一面が畑になっているが、急な斜面を山頂まで開墾し尽くしたところも多く見られる。ほとんど木がなくなった山肌には土砂崩れが起きており、その生々しい痕跡を見ることができる。

私も以前、中朝国境踏査の時にはこの土砂崩れの現場で復旧作業をする人たちを間近に見たことがあるが、ほとんど重機もない、手作業であった。このはげ山に農繁期前なのに木を植えるというのであるから、理解できない。北朝鮮のはげ山に植林する事業は韓国や国連の機関などによって、10年以上も前から計画され、一部はその作業に取りかかっていたが、完成を見ることはなかった。

ともかく「治山治水」事業という何十年も前から叫ばれてきたことを今更のごとく行ったようだが、今年も容赦なく北朝鮮には大雨が降り注いでいる。朝鮮中央テレビは8月5日、咸鏡南道で1~2日に149~307ミリ・リットルの大雨が降り、河川の増水で堤防が決壊し、住宅1700戸が破壊、浸水し、住民5000人以上が避難したと報道。数百ヘクタールの農地が冠水、流失し、約17キロ・メートルのにわたる道路と数か所の橋が破壊されたなどと伝えていた。

北朝鮮は昨夏も大規模な水害があり、食糧不足の一因になったと指摘されているが、今回の水害が経済的苦境に追い打ちをかける可能性は大である。金正恩総書記は「復旧用の資材を国家の備蓄分から緊急に使用し、中央が財政的、物質的に協力を支援せよ」と命じ、朝鮮労働党中央委員会の幹部たちが、15日に被災地を訪れ、食糧や資金を届けたと伝えられた。

幹部らは新興郡の党委員会庁舎で避難生活を送る被災住民らの状況を視察し、地元党幹部らに対し、10月10日の党創建日までに復旧作業を終えるよう指示したというが、どれだけの復旧資材と資金が提供されたのかわからない。しかし、毎年、各地で起こるこのような災害に対して、中央からのおなざりな命令・指示に地方の党幹部は承服するのみで、後は決められた期限までに形式上の復興業完遂を報告するのみで、水害復旧工事の根本的な解決のための工事などは、まともに行われないまま、翌年の水害を被ることになる。

北朝鮮は新型コロナウイルス対策で昨年1月末から国境を封鎖し、貿易が激減した。昨年は台風被害も相次ぎ、国連食糧農業機関(FAO)は今年秋にかけて約86万トンの食糧が不足すると推定。追加輸入や外国の支援を受け入れなければ「極めて厳しい状況」に陥る恐れがある。

外国からの支援についてであるが、今の北朝鮮に食糧援助をする国と言えば、「血で結ばれた友誼の国・中国」か、「従北政策に盲進する韓国」くらいなものである。すでに国連世界食糧計画(国連WFP)は6月22日に、「アフリカを中心に世界43か国で4100万人が飢饉に陥る恐れがある」と発表した。その上で「対策には60億ドル(約6600億円)が必要」とし、各国に資金支援を求めているが、国連WFPの顧客である北朝鮮への支援は望み薄だろう(と言うのも、北朝鮮・平壌から今年の3月に国連機関の職員たちが北朝鮮から脱出してしまったから)。

北朝鮮の今年の農業生産性を暗鬱(あんうつ)にさせているものは、2016年以来強化され続けている対北朝鮮制裁の否定的な効果で、これは時間が経つほど累積している。さらに、新型コロナウイルスに伴う国境封鎖は農業生産に必要なすべての投入要素の導入に大きな障害となっていることである。その中でも「化学肥料の輸入減は厳しい」が、私が20年以上も前に日本に来た北朝鮮の農業代表団の団長が語ったのは「北朝鮮の農業生産の不振は、1に種子、1に土壌問題、残りの2は生産方式」であった。

北朝鮮は全体肥料使用量の半分以上を輸入に依存し、年間肥料使用量の半分以上を春季に投入しなければならないことを考えると、現在の肥料供給の減少は北朝鮮の今年の農業に大きな脅威となっていることがわかる。しかし、一部では北朝鮮が、かなり前から有機農業を強調しており、化学肥料の減少減はそれに伴う自然現象だと主張する。ところが、栄養成分の比重の低い有機質肥料にとって代わることはできない。花崗岩を母岩にした痩せた土壌では、化学肥料の助けなしには生産性の向上は期待できないのである。

「<北朝鮮内部>田植えに間に合わない!深刻な営農資材不足 『廃ビニールつぎはぎしてハウスを作れ』と農民を動員」(アジアプレス 2021年5月19日)に、「堆肥より劣る国産化学肥料」として、「また、国産肥料の質の悪さも問題になっている。協力者が聞いた金亭ジク郡の農場員は,『昨年、国産の化学肥料を施した畑では、人糞などで作った堆肥を施した畑より生産量がずっと低かった。国産肥料はあまりに低湿なのだ』と説明する」とあった。北朝鮮が喧伝した「主体肥料」とはこのようなものであったのである。

「空にはミサイル、畑には人糞」を地で行く北朝鮮の農業生産は今年も暗たんたる結果になるだろう。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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