なぜタリバンは人気歌手を殺したか?日本が見捨てたアフガンで繰り返される悲劇

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米軍の完全撤退により大混乱が続くアフガニスタンですが、タリバンによる蛮行が次々と明らかになっています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、アフガンの人気男性民謡歌手がタリバンに殺害された事件を取り上げ、その非道な行いを強く批判。さらにアフガンの人々の救いを求める声に耳を貸さず、彼らを救助することなく見殺しにした菅政権の外交姿勢を非難しています。

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音楽が禁止された国

日本でのアフガニスタン関連の報道は「ISILの自爆テロで170人死亡」「米兵13人が死亡」「米軍が報復、タリバン1人を殺害」「バイデン大統領、米兵13人の遺体出迎え」「バイデン大統領、アフガンからの撤退完了を宣言」と、さすがはアメリカの属国という感じです。しかし、ここ1週間であたしが最も驚いたのは「タリバンが音楽を禁止した後、フォークシンガーを射殺」という海外の報道でした。

この報道を知らなかった人のためにザックリ説明すると、まず、タリバンのスポークスマンであるザビフラ・ムジャヒド広報官が、ニューヨーク・タイムズのインタビューの中で「イスラム教は音楽を禁止している」「タリバンは今後、公共の場での音楽の演奏を禁止する」と述べ、その記事が8月25日付の同紙に掲載されたのです。そして、その3日後の28日、アフガニスタン北部バグラーン州のアンダラブの村にタリバンがやって来て、地元の有名な歌手のファワド・アンダラビさんを射殺したのです。

記事には便宜上「フォークシンガー」と書いてありましたが、あたしたちが想像するようなフォークではなく、ファワドさんの音楽は、弓で奏でるギチャクという弦楽器を弾きながら歌う民族音楽でした。この地方の伝統的な音楽で、奄美群島で言えば「島唄」のようなものです。イスラムを批判しているわけでもなく、タリバンを批判しているわけでもなく、生まれ育った村の自然や歴史を歌っているだけの人畜無害な民謡です。それなのに、どうして殺されなければならないのでしょうか?

タリバンは1カ月前、アフガニスタンの有名芸人のナザール・ムハンマド・カシャさんを殺害しました。ナザールさんは、タリバンを諷刺する内容の歌やダンスが持ちネタで、「TikTok」にそのネタを投稿していました。すると、タリバンによる首都カブールの制圧が時間の問題となった7月下旬、突然、ナザールさんの自宅にタリバンの戦闘員が踏み込んで来て、ナザールさんを拉致し、残酷な方法で殺害したのです。

犯行後、ナザールさんの「TikTok」には、拉致された車内でナザールさんが殴られている動画がアップされ、ナザールさんの「Twitter」には、殺害される直前の画像がアップされました。どちらもタリバンによるもので、目的は「見せしめ」でしょう。

もちろん、このような凶悪犯罪は絶対に許されないことですが、ナザールさんの場合は以前からタリバンを諷刺していたのですから、ターゲットにされた理由は分かります。しかし、今回の歌手、ファワド・アンダラビさんの場合は、伝統的な音楽を歌って来ただけで、タリバンの批判などしていません。

百歩ゆずって、音楽の内容は関係なく、タリバンが勝手に作った「公共の場での音楽の演奏を禁止する」というトンデモ法に抵触したのかもと思いましたが、一部始終を見ていたファワドさんの息子のジャワドさんによると、突然、自宅に踏み込んで来たタリバンの戦闘員がファワドさんを外に引きずり出し、農場でファワドさんの頭に銃口を向けて射殺したと言います。ジャワドさんは「父は人々を楽しませるだけの歌手だったのに、タリバンは父を農場へ連れて行き、父の頭に銃弾を浴びせた」と説明しました。

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